耳が痛くなるほどの静寂の中でその湖は、夜の帳の幻想に包まれていた。
水面を奔る光と佇む闇。
波紋が広がれば、神秘的に混ざり合う両者。
この空間は、一種閉鎖された次元だった。
湖の中央に在る古城を生まれたばかりの混沌の灯が囲む。
大小の灯火は、城の周りを踊るように弾み、飛ぶ。
全ての光と闇が一つになったとき、一瞬で消えた。
変わりにこの空間の異質なものではなくなっていた。
閉鎖から開放へ。
夜の帳ではなく少しだけ冷えた朝霧が立ち込めて。ぽつん、と変わりなく存在する白き古城。金色の光を浴びてぼんやりとした輝きを纏っていた。
残念そうにその情景を一人の女性が湖畔から眺めてた。嘆息を漏らして、顰める表情もどこか儚げで美しい真珠色の立ち姿。
そう、白に統一された姿は神格化される程、完璧だった。
この湖に浮かぶ古城の主――ユラギである。
彼女は幾度となくそれに挑戦していた。対を成すものを、敵対する光と闇を一つにしようと。混沌は出来るのだ、二つの間には。しかし、それから必ず拒絶を見せる。
それは、まるでこの世界そのもののように。
険しかった顔が無表情に戻ると、彼女は一歩踏み出した。
朝日で神秘的に煌めく純白の湖の方へと。


*


哀しき夜はそこに在った。
小さな蛍火は彷徨うように惑うように飛び回っている。
無の賢者の呼びかけに応えた闇であった。
まだ幼き精霊は、そのあどけない顔に反して、愁いを帯びた深い色の瞳を持っていた。光を宿した大きな双眸からは、無色透明な滴が零れていた。
己の使い魔が湖の方から戻ってくる。艶めいた漆黒の蝶は、精霊の掌に停まると発光し散った。花弁にも似て優美に堕ちていったそれらを拾い集めるように蹲ってしまった。
とめどなく溢れてくる泪。暗闇でもわかるシミをつくっていった。


*


希望をなくして輝くだけの光がある。
眩しい中には、影すら見当たらない。
少しだけぼやけた輪郭の鳥が立ち止まった。コインに似た何かをその場に落として光の中に溶け込んで消えた。
突如、ざわめきたつ。
影無き影が浮かび上がり何重もの鎖に縛られた青年が降り立った。伏せた瞳には、秘めたる闇が蠢いている。
声を発することなく何かの呪文を唱える。
口の動きは億劫そうでまるで欠伸をしてるかと見えた。退屈だとばかりに溜息だけを残してまどろみの光に紛れ、同調して形を消してしまった。

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