- ナノ -

出会いの春

今日から私は高校生になる。

高校までは自宅から電車と徒歩で約1時間。
母と一緒に稲荷崎高校の校門をくぐる。

校内には私と同じように親と一緒に来ている生徒が沢山いてとても賑やかだ。
部活動が盛んな学校なので、中学に比べると新入生でも体格の良い生徒が多い気がする。

「なまえー」

後ろから声をかけられ振り返ると、同じ中学で仲の良かった栗山恵ことめぐちゃんが母親と一緒にちょうど門をくぐったところだった。

めぐちゃんの家と私の家は中学を挟んで真逆にある。
私の自宅近くは私鉄の路線が通っていて駅も近いのだが、めぐちゃんの家はバスの路線が発達していてそちらの方が利便性が良い。
ちょうど自宅近くのバス停から稲荷崎高校の
前までを通る路線があるので、めぐちゃんはバス通学になった。

「めぐちゃん、おはよう!」

「なまえもおはよう!もうクラス分け見た?」

「ううん、さっき来たとこやからこれからやねん。一緒に行こ!」

「同じクラスやったらいいなー!」

母親達は少し離れたところで立ち話をしていたので、「クラス分け見てくる」と告げると、保護者はもう式典会場に入れるからこのまま行くわと言われた。


めぐちゃんとクラス分けが掲示されている場所へ向かう。
2人で1組から順番に名前を探していたのだか、3組を見ている途中でめぐちゃんが「あれ?」と言う。

「どないしたん?あ、めぐちゃん3組か」

「そうみたいやねんけど……え、うそ!」

「え、なになに?」

「もしかしたら中学校入る前に引っ越した幼なじみがおるかもしれん!」

「え、まじで!同じクラスなん?」

「私の出席番号のすぐ前」

「めぐちゃんの名前の前やったら……ぎんじま……ゆい?」

「ちゃうちゃう、あれでひとしって読むねん」

「そうなんや。え、ひとしと言うことは男の子?」

「うん!」

「へぇー、本人やったらええな!」

「うん!」

めぐちゃんはにっこり微笑んだ。



入学式が始まる前、教室で自分の名前が貼られた席に座ってスマホをいじりながら待機していた。
なにやら隣の席の女子とその前の席の男子の会話が弾んでいる。

「えー!やっぱめぐやん!
クラス分け見てもしかしたらって思ててん!」

「私も!久しぶりやけど面影あるからすぐわかったー」

「和くん元気しとるん?」

「めっちゃ元気やで!去年から大学生やからバイトとかであんまり家おらへんけどな」

なるほど、幼馴染との再会的なやつか。
自分の子供の頃を知ってるやつと成長してから再会とかめんどくせぇ。
俺ならスルーだ。
こっちに親戚以外の知り合いはいないから、
そういったことは俺には起こらないだろう。


入学式が終わって、帰りにバレー部へ挨拶に
行ったら、さっきの幼馴染(男)がいた。


銀島というらしい。


「角名同じクラスやろ?
席も近いしよろしくな!部活がんばろな!!」


…ソッコー絡まれた





次の日、教室に入ると銀島と
隣の席の女子の他に
もうひとり女子が増えていた。


「お、角名おはよう」
「おはよう」


教室では省エネで過ごそうと思ってたのに…

とりあえず二人に挨拶を返す。


「…おはよ」

席につくと、昨日はいなかったもう一人が
挨拶してきた。


「おはよう、隣の4組のみょうじです。
うちのクラスギャラリー多いから
避難してます。よろしく!」


避難?どういうこと?

と、その子の顔を見上げながら
ぼんやり考えていると、
それを察したのか銀島が教えてくれた。


「みょうじさんのクラス、宮侑おんねんて」

「あぁ、そっか、昨日言ってたね、4組って。
あの中総体ベストサーバーの方だろ?」


かばんを机の横に引っ掛けながら
銀島に相槌をうつ。


「そうそう、イケメンやから早速女子が
集まっとるらしい」

「へぇー」

「せやねん、しかも宮くん、
私の席の近くやからさぁ、なんか知らん子が
私の席占領してて…かばん置かせてくれる?
て聞いたらその子に睨まれた」

「…入学早々、大変だね。よろしく、角名です」

「お気遣いありがとう。
私しょっちゅうここに入り浸る予定やから
お世話になります」


ぺこっと、みょうじさんは俺に頭を下げた。

その時はなんか真面目そうな子だな
と思っていた。

頭を上げながら、それにしても、
とみょうじさんが話を続ける。


「角名くんて関西出身ちゃうの?
なんかイントネーションが…違うな」

「あぁ、こっち出身じゃないから。
スポーツ推薦で県外から来たし」

「え、ご両親は?家族で引っ越してきたん?」

「いや、俺だけこっち来た。
母方の親戚ん家がここから通えるとこに
あるから。
そこで世話になってる」

「へぇー、すごい!同いやのに!尊敬するわ!」


なぜこんなに自分の話を話しているのか、

別に言うつもりもなかった事まで喋ってしまう。

初対面なのにグイグイ来るみょうじさんとの
距離感をはかりかねていると、
銀島がちょっと冷やかしてきた。


「なんや、えらい角名に食いついとるな、
みょうじさん」

「ホント、すごい興味もたれてるね、俺」


ちょっと気恥ずかしくて、茶化すように
スルーしようとしたのだが、
みょうじさんは追い打ちをかけてくる。


「え、だってすごない?
部活目的で親元離れてとかヤバない?」

「そうかな、でも親戚の家だし」

「それでもすごいわー、部活は銀島くんと
同じバレー部やねんやろ?
私、めっちゃ応援するわ!」


何なの、この子

ちょっと人懐っこすぎない?

なんか、調子狂う


「ありがと」


…変な空気になっちゃった


するとタイミング良く銀島が話題を変えた。


「めぐとみょうじさんは部活入るん?」

「私らは稲高の吹奏楽部目的で来たから。
なぁ、めぐちゃん」

「なぁ、なまえー」

「あぁ、吹部も強いんやっけ?うちの高校」

そうなんだ、正直バレー以外は
興味なかったから知らなかった。


「強いと言ってもなぁ…確かに関西までは
常連やけど全国には手が届かんくらいやし。
でも絶対全国行きたい!」

「まずはコンクールメンバー入らなね」


俺のことをすごいと言いながら、彼女達も
吹奏楽で全国に挑もうとしているようだ。


なんだ、俺らと一緒じゃん


「よっしゃ!じゃあ俺らもお前らめっちゃ
応援するからお互いがんばろな!」

「だね」

「なんか決起集会みたいやなー!
高まるな!」

「ふふっ、熱いね!」