- ナノ -

独白と後悔

角名が、待合室から出ていったあと
私はしばらくその場から動けなかった。

なんとか家に帰ったら20時を過ぎていた。
おかんにがっつり怒られたものの、
家族からも誕生日を祝われ
夕食とケーキを食べたら
すぐに自室に戻ってベッドにダイブした。

今日はいろんなことがありすぎた。

テストが終わって
友達や家族に誕生日を祝われ、
死ぬまでには一回演奏したかった曲の
合奏があって、

それと

角名に好きだと言われた。

ああ、
きっといつものおフザケや、
期待してはいけない
答えてはいけない

想いにブレーキをかけにいく。

寝返りを打つと、今日友人達から
もらったプレゼントが目に入った。

角名からもらった包みはまだ開けていない。

ベッドから起き上がり、
机の上のパステルピンクの包みを手に取る。

リボンをゆるめて中身をそっと取り出すと、
リップクリームが入っていた。

ずいぶん前に、唇が乾燥して皮がむけまくる
なんて話を角名にしたことがあったっけ。

そんな些細な話も
ちゃんと覚えててくれたんかな。

胸がギュっとして痛い。
鼻がつーんとする。
ちょっと視界がぼやけてきた。

言ってたやん、
角名は。

好きって。

あのときの角名には
私は正直に向き合わなあかん。

わたしは
角名が好き。



まだ好きだと伝えるつもりはなかった。

いつものようにありがとう!と言いながら
弾ける笑顔を向けてくれると思ってた。

手のひらにのせたプレゼントを見て
ゆっくり顔を上げたみょうじはちょっと涙目で
俺の顔をただ熱っぽく見つめていた。

どうして、
どうしてそんな顔してんの?
目が離せなくて

もうこれ以上、
気持ちを抑えることができなくて

好きだと伝えた後は、
その場にとどまることができなくて

俺は逃げた。

自分からボールを投げたのに、
返されるのが怖い。
そもそもボールは帰ってくるのだろうか



今日が土曜日で良かったと
これほど感じた日はない。

練習に打ち込む間、心はフラットだ。
バレーやっていて良かった。

練習も終わり、部室で着替えながら
侑と治の漫才のようなやりとりを見ていた。

ちゃんと普通に一日過ごせた。
そう思っていたのに、帰り際になって侑に

「角名、今日付き合え」

と、駅前のファストフード店に
連れて行かれた。

「治は?」

「先帰らせた」

「……俺だけ誘うとか珍しい」

「角名、お前なんかあったんか?」

ほんと、鋭い。

「真面目な話や。
俺らに言われへんような事なんか?」

「……そういうわけじゃないけど、
ほんと……くだらない話だから」

「くだらんかどうかは俺が決めるし、
ホンマにくだらん悩みやったら笑ろたるわ」

なんだそれ、
侑らしいな。

コップの水滴が流れ落ちるのを
ぼんやり見つめる。

俺は腹をくくった。

「実はさ、昨日勢いでみょうじに
好きだって言っちゃったんだよね……
まだ……言うつもりなかったんだけど」

「……ふん……そうか」


侑は窓の外を見つめながら頬杖をついている。
店内のBGMがやけに耳に響く。

「で、返事は……もろたんか?」

「いや、逃げた」

「は?逃げられたんやなくて?」

「俺が逃げた」

「なんで?」

濡れたコップを手にとって中身を喉へ流し込む。
氷が溶けたアイスコーヒーは少し薄い。

「……いつも自分の好意を冗談で隠しながら反応見てたから……
本気の告白を冗談ってかわされるかもって思ったら……何だか怖くなった」

「はーあ、重症やな」

侑が天井を仰ぐ。

「……笑えよ」

「笑えるかっ、仲間とクラスメイトの一大事や」

あの人でなしの侑でも俺たちのことを
そんな風に思ってくれてたのか。

「……ありがと」

「なんや、気色悪いな。……まあ、俺は大丈夫や思うで」

「何が?」

「なまえちゃんやったら、
ちゃんと角名の本気に気ぃついて、
向き合ってくれるやろ」

「………だめだったらどうしよう」

「……そんときは、骨くらい拾ったる」