- ナノ -

2022冬 拍手御礼

率直に言うと朝が苦手だ。
特に今日のような寒い日の朝は。

スマホのアラームが鳴ってすぐに止めた。目は覚めているけど、この暖かな布団の外へ出る勇気が一向に湧かない。

広いベッドにはすでに倫太郎の姿はない。
彼は毎朝私よりも早く起きてストレッチをしたりランニングにでかけたり身体を動かすことが日課になっている。

リビングまで行けば彼がエアコンを入れてくれているので温かいことはわかっている。
わかってはいるものの、部屋を出るどころか布団から出ることすら今の私には難しい。
本来やらなければならない行動に逆行するように私は掛け布団を頭まですっぽりと被った。

廊下から足音が聞こえる。
倫太郎だ。
もうランニングから帰ってきてたんだ。

「なまえ、そろそろ起きないと遅刻するよ?」
寝室に入るなり私へ声をかける倫太郎へ
「………さむい」
とだけ返す。

「今日会社休む?」
彼がゆっくりとベッドまで近づいてくる。
「それができたら苦労しない」
そう返事すると同時に倫太郎は私が被っていた掛け布団をぺろっと剥いだ。

「さっむ!」
「ほら、準備しないと。朝メシ食べそびれるよ?」
「朝ごはんいらない、体温上がるまでここにいる」
「だめだって、ほら」

倫太郎がベッドへ腰掛けるとギシリと音を立ててスプリングが軋む。
彼は私の背中とシーツの間に右腕を差し込んで抱きかかえるように無理矢理私の上半身を起こした。
それに抗うように私は体を反り返して布団へ戻ろうと悪あがきすると倫太郎はぷっと吹き出す。

「そんだけ動けんならもう起きれるんじゃない?」
「まだ無理かな」

しゃあねぇな

倫太郎は私の耳元に吐息をたっぷり含んだ声で囁く。
ぴくりと跳ねた私の一瞬のスキを彼は見逃すはずもなく、被っていた掛け布団は一気に剥がされた。

「ひっ!さむい!」

彼の右腕の中で縮こまる私の膝裏に倫太郎は空いていた左腕を差し込んで一気に私を抱き上げる。

突然の浮遊感と寒さで反射的に倫太郎の首へしがみつくと
「まだ寒い?なまえ」
としつこくも耳元に唇を寄せてそう囁く。
「……さむいからこのままリビングまで連れてってくれる?」
「おねだり上手になったね」
「そうかな?」
「そうだよ」

彼は私を抱き抱えたまま寝室の扉を器用に開けてリビングまで歩く。
私はというと、廊下の寒さを言い訳に彼の首筋にぎゅっと抱きつく。

こんな寒い日の朝に早く起きたんだから、これくらいのご褒美はいいよね。