葬り方すら忘れて | ナノ

冷えた指先より更に冷たい金属が繋いだ手の僅かな温もりを思わせた。かちかちと安っぽい音をたてて触れ合うそれに今更ながら妙に恥ずかしい思いが込み上げる。

「臨也さん、」

「なあに正臣くん」

臨也さんはこちらを見ようとはせず、ひたすら店の外を流れる人混みに視線を泳がせている。この人の場合、これは照れ隠しでもなんでもなくただの人間観察。自分の趣味なもんだから俺もそれなりに拗ねたようなふりをしてみる。

「手、放してください」

「やだ」

即答かよ。俺は仕方なく空いている方の右手で洒落たネーミングのカプチーノを飲みながら溜息をついた。

雨が降っている。雨が降ろうが雪が降ろうが相変わらず人の多さは減ることがなく、大通りに面したこの店は人間観察に最適の場所だった。頭痛がするという正臣くんをとりあえず外へと連れだして数時間。その間繋いだ手だけは片時も離さなかった。
つい先日プロポーズしてそれを受けてくれたのが今日のこと。愛の言葉など忘れてしまったけれど、それほどに必死だったのだろう。それに彼が隣にいる今、言葉なんて何の意味も持たないように思う。この指輪だって所詮は俺の自己満足で正臣くんにとっては意味なんてないのかもしれないけど。

「正臣くん、俺は思うんだよね。君が最初に俺の提案を断ったとき君は愛のないふたりが結ばれたってどうしようもないと言ったよね。その結論に至るには君のご両親の間柄がそのような関係だったことが予測されるのだけど」

臨也は一旦息を吐いた。そして涼しい顔を崩さぬまま深呼吸する。正臣はその様子をつぶさに見守っていた。

「でも、その結果生まれたのが君なら。愛のないふたりが結ばれてもいいんじゃないかな」

ぽろ、と窓ガラスを伝う雨のように透明な雫が正臣の瞳から音なく零れた。

この季節は嫌いだった。雨が降ると何故か頭が割れそうに痛くなる。それに何より俺の誕生日があるこの季節が嫌いだった。誰からも愛されたことない俺が誰かを愛することなんてできやしない。ましてや臨也のことなんて。

涙で歪む臨也の朱い瞳を見ながら思う。この感情に名前をつけることなどもはや不可能だ。だけど、それでも。最初からこうであると決まっている鋳型みたいに。この一対のリングみたいに。あんたなしじゃもう生きられない。俺の心が身体があんただけを求めて止まない。

「臨也さん、  してます」

雨音に溶けた睦言に臨也は柔く、微笑んだ。


2010 0619
臨正結婚しろ!
正臣おめでとう!


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