午後10時
ちょうどシャワーを終えたリヴァイは、冷蔵庫から取り出したミネラルウオーターを口にした所だった。インターフォンが鳴ったので、モニター画面を確認すればそこにはナマエの姿。
カメラの位置を知っている彼女は、片手にレンタルビデオ店の袋、もう片方の手には大きく膨らんだコンビニエンスストアの袋を掲げてにんまりと笑っている。
「……さっさと入れ」
それだけ言って、リヴァイは開錠ボタンを押した。
「ごめんね、急に」
玄関の扉を開けるなり、ナマエは困ったように微笑んで見せた。さっきまで閉め切っていたリヴァイの部屋には、急に夜の外の空気が流れ込む。
「珍しいな。連絡もなく」
「連絡しようかどうか迷っているうちに着いちゃって」
「そうか」
「リヴァイもうお風呂入っちゃった?一緒に入りたかったのに」
わざとらしく頬を膨らませるナマエ。リヴァイはおもむろにレンタルビデオ店の袋を開き、中のタイトルを確認した。
「……ああ。今入ったばかりだ。お前もさっさと行ってこい」
「そうする。じゃあ、お風呂借りるね」
「新しい寝間着は寝室んとこの三段目だ」
「ひょっとして冬用?」
「薄いやつはもう寒いだろ」
「あはは!ありがとう」
ふかふかの寝間着を手に、ナマエは浴室へと入っていく。リヴァイはコンビニエンスストアの袋からジュースやアイスクリームの類を冷蔵庫に収め、スナック菓子の類は皿に乗せてローテーブルの上へと移動させた。ついでにレンタルビデオ屋のDVDを並べておく。
たまに、ある。
理由はわからないけれど、ナマエは泣きたがる時がある。そんな時は絶対に泣ける映画を借りて、思い切り涙を流した後、ぽつぽつと泣きたかった理由をリヴァイに述べるのだ。大人になればなるほど、他人に解決法を委ねたり、素直に泣いてみせたり出来無くなる。だからナマエは、こんな風に泣ける環境を作る。
「あー、さっぱりした」
髪の毛は半乾き。いつものリヴァイならきちんと乾かせと言うけれど、今日は目をつぶった。
「何飲む」
「ううん……と。買ってきたチューハイ飲みたい。甘いやつ」
リヴァイは黙ってチューハイの缶をテーブルに起き、自身はペリエの瓶を開けてソファに座り込んだ。
季節は冬の入口。まだ暖房の入ってない部屋は肌寒かったので、リヴァイはナマエにブランケットをかける。ブランケットに包まったナマエはDVDの再生ボタンを押した。リヴァイも知っている映画だった。1年くらい前に2人で劇場まで見に行って、ナマエは開始10分で大泣きをしていたやつだ。
ナマエはリヴァイの想像していたシーンで泣き始め、リヴァイのTシャツの裾を握りしめた。
「ナマエ」
リヴァイがナマエの肩に手を回すと、待っていましたと言わんばかりの勢いでナマエはリヴァイの腕の中へと飛び込む。片目で画面を見ながら、ナマエはリヴァイの胸に額を擦りつけた。
小さなため息を吐きながらも、リヴァイは静かにナマエの背中を撫でる。
映画が終わるまであと1時間と少し。エンドロールになった頃には今日の涙を理由を聞いてみようと思いながら、リヴァイはナマエの前髪を掻き上げ、額に唇を押しつけたのだった。
Don't cry