Unconditional | ナノ


▼ 1.New team(新リヴァイ班)

カントリー調の艶ばった家具達。柔らかなブルーとベージュのチェック模様の壁紙。至る所にあるパッチワークの作品はカルラが作ったものだ。ナマエが幼い頃からずっと傍にある、クッションカバーやブランケット。

キッチンに甘ったるい香りが立ち込める。もうすぐパイが焼き上がる。

「おはよう」

オーブンがタイマーの音をたてると同時に、2階からリヴァイが降りて来た。寝間着のタンクトップの上にグレーのガウンを羽織ってナマエに近付くと、パイと同じくらいに熱いキスをする。

「おはようリヴァイ。よく眠れた?」

「ああ。新聞を取って来る」

「草刈りはほどほどにしてね。もう朝食が出来るから」

返事をする代わりに、リヴァイはナマエの額にもキスをした。彼はその恰好のまま、玄関の方へと向かう。

ケトルも音をたてたので、ナマエは目に痛い程のビビットな水玉のエプロンで手を拭き、戸棚からティーセットを取り出した。紅茶を淹れるのはリヴァイだ。冷蔵庫にはさっき庭で摘んだばかりのハーブのベビーリーフとトマトがある。きっと彼はそれでサラダも作る。

開け放たれたリビングの窓から、水を張ったプールの光が揺らめき、天井にも水面を作りだしていた。静かな朝。穏やかな朝。まるで南の島の海の底にいるようだ、とナマエは思う。

玄関の方からリヴァイが草刈り機を回す音が聞こえる。途中で一旦音が止まり、いつもより大きなリヴァイの声で「ただの草刈りだ」と誰かに叫ぶ様子が聞こえた。きっと道行く誰かに、何をしているんだと尋ねられたのだろう。

くすくすと笑い声を立てながら、ナマエはリヴァイを呼びに玄関の扉に手をかけた。

「ねぇリヴァイ、そろそろ朝ごはんにしましょうよ──」

眩いほどの光がナマエの目を覆う。眩しさに思考が停止し、一度目を擦ってからしっかりと両目を開く。

すると急に、朝の風景が消えた。

「目が覚めたかい?」

横になったナマエを見下ろすような形で、ナマエの知らない男性がいた。アンティークな眼鏡、印象的な髭。

「え……リヴァイ……は?」

リヴァイを呼びに玄関へと向かったはずだったのに。いや、正しくは自由の翼フリーフライの中枢地区の、食堂へと向かうはずだった。トイレに行く途中、そこからナマエの記憶は途切れている。

目覚めた部屋はまるで病院のような室内で、どことなく薬品のツンとした匂いが鼻をついた。そんなに広くは無い。タイル地の床、冷たい壁、スチールの薬品棚が並ぶ。

「良い夢見てたんだろう?知ってるよ」

「あなた……誰?」

ナマエの問いかけに、男は目を細めて笑った。

反射的にナマエは起き上がろうとしたが、それは叶わなかった。両手首は後ろ手に縛られ、ナマエが横になっているそこは、手術台の上のような場所だった。白いライトが目に眩しい。ナマエも、目を細める。

「ジーク・イェーガー。君のお兄ちゃんだよ、ナマエ」

お兄ちゃん、と言われた所でナマエに心当りがあるはずもなかった。ジークと名乗る彼はナマエに背を向け、何か独り言を呟いている。

ジークの着ていたシャツはまるでドクターの白衣のようで、歪な病室へと放り込まれたようだった。

その頃──

ナマエやジーク達がいなくなった自由の翼フリーフライの発電所では混乱を極めていた。

故意的に連れて来られたとしか思えない程のアンデッドの数。それを自由の翼フリーフライの限られたメンバーで、敷地内に暮らす非戦闘員を守りながら戦わなくてはいけない。

「第一区画を避難先に!狙撃班は西側へ、火災に注意せよ!」

エルヴィンの声が敷地内に響く。

かろうじてまだ、自由の翼フリーフライから感染者は出ていない。

リヴァイは持っていた鉄パイプを捨て、合流したエルド、グンタから受け取ったアサルトライフルに持ち替えた。

「お前ら、バヨネット銃剣がついたライフルにしておけ。奴らの間合いに入ると、結局弾よりナイフの方がいい」

エルドどグンタは揃って「了解」と返事をし、銃口の先に小型のナイフを取りつける。弾切れやジャミングを起こした時は、小さいといえど、バヨネット銃剣があれば、ライフルが槍の要領で使えるようになる。

(ここを制圧しちまわねぇと……ナマエを追いかけられねぇ)

リヴァイの胸には1枚だけのドックタグが揺れる。彼女の不在を浮き彫りにするかのように。

ライナー達が破壊した南門の付近には特にアンデッドが多い。ここが発電所でなければ、エルヴィンはすぐさま手榴弾の類をお見舞いする指示を出す所だ。かと言ってそれをしてしまうと、発電所内にも被害が及ぶ。

「俺が先陣を切る!お前ら、絶対に噛まれるんじゃねぇぞ!」

両手でライフルを構えながら、リヴァイは銃声の響く先へと飛び出して行く。

「兵長に続け!ゴーゴーゴーゴー!」

エルドは門より一番近い建物、第二区画の屋上から狙撃をしかけるペトラ、オルオペアに右手を挙げて合図する。リヴァイらが取り零したアンデッドは、2人が屋上から追撃する。

しかし基本的な戦闘能力が高いリヴァイは、海底に群生する海藻のようなアンデッドの間を、泳ぐように通り過ぎて行った。それだけで彼の持つ刃物は刃物としての役割を100パーセントに果たし、血の波跡を描いていく。1体、2体、3体、背後から仕掛けてきたアンデッドには回し蹴りと同時に発砲──4体、5体。体を低く、時に飛び上がり、銃口のバヨネットで項を抉り、繰り返す。

リヴァイが南門に立った瞬間から、発電所内、奥へと入り込むアンデッドは止んだ。先に入り込んだアンデッドは他の自由の翼フリーフライのメンバーで殲滅にあたる。

リヴァイがどこまで持ちこたえられるか。戦況がそうなった頃だった。

「リヴァイ!下がれ!」

エルヴィンの怒号とリヴァイがそれとに気付いたのは同時だ。

壊れた門の外から軍用車両が近づいて来る。ライナーらが乗っていたものとはまた違う。何より今突っ込んでこようとしている軍用車両の上には、闇雲に銃を乱射する少女の姿がある。

「なんだあのガキ」

少女はどう見てもアンデッドでは無く、普通の少女だ。リヴァイは念の為、班員達にハンドサインで合図を送る。

『全員止まれ。エントリーポイントで待機せよ』

サインを確認して、銃を降ろしたエルド達は注意深く周囲を伺う。アンデッドの数は当初よりは落ち着いていた。

「ユミル……ユミルはどこ?!」

乱射していた銃を投げ飛ばし、金髪を瞬かせる少女は車から飛び降りてリヴァイらの方へと駆け寄ってきた。背後からは彼女を呼ぶ仲間らしき数名。

「待てヒストリア!ちゃんと周りをよく見ねぇと!」

「そうですよ!気を付けて下さい!」

どう見ても、エレンらと年の違わぬ少年少女達だ。それもそのはずで。

「お前ら……!どうしてここにいるんだ!」

今度はリヴァイの背後、第二区画内へと避難していたエレン、アルミン、ミカサの3人が飛びだして来た。銃を片手に、エレンはヒストリアへと駆け寄る。

「状況を説明しろ。そいつらはお前のお仲間だろう、エレン」

エレンの肩に手を置きながら、そう言ってリヴァイはヒストリア、ジャン、コニー、サシャの4人を一瞥した。

「リヴァイ兵長!姉ちゃんが攫われたって……さっきから噂になってて。ライナーとベルトルトが……あの、デマですよね?」

「デマじゃねぇ。ナマエを攫ったのはお前ら士官学生の一員だったライナーとベルトルトだ。で、そっちの4人はどうした。エレンの身代わりで軍の方に行ってたんじゃねぇのか」

エレンは目を大きく見開き、怒りの感情をどこに置くべきか一瞬思案した。しかしリヴァイの声はちゃんと理解したらしく、すぐにヒストリア達の方へと向き直った。

「そうだ。お前らどうしてここに……」

それに答えたのはジャンだった。

「パラディ軍本部から脱出してきた。アルミンの言った通り、どうも様子がおかしかったからな。それで一旦エレン達と合流しようって話になったんだよ。本部の方も混乱してたぜ、エレン。お前の姉さんが捕まらないってな」

「パラディ軍本部もマーレのライナー達も、抗体を持ったエレンとナマエを狙っているんだ」

アルミンがそう言うと、リヴァイは小さく舌打ちを零した。

「そういえばさっき、ライナーがエレンのお姉さん?を攫ったって言ってませんでした?私達すれ違ったんですよ、ライナーの乗った車両と!」

「誰か地図持ってねぇか?海岸線の方に出る道に向かってたぜ、奴ら」

コニーがそう言うと、リヴァイの背後から地図を持って現れたのはエルヴィンだった。

「リヴァイ、彼等を率いてお前はナマエの奪還へ迎え。ここも死守しなければ、我々も後が無い」

「遠足にしちゃあ天気が悪いが……そうすることにしよう。どの道、俺1人でも行くつもりだった」

エルヴィンが広げた地図にコニーが印をつけていく。

エレンを初めとした学生達は皆、平静を装いながらも顔は蒼白く、手先は震えていた。無理も無い。安全だと思っていた発電所内に突然のアンデッドの襲撃、更にそれはライナーとベルトルト、仲間だと思っていた同期生達が引き起こした人為的なものであったのだから。

コニーが地図に印を終えると、リヴァイは「よし」と言って周囲を見回した。

「第一目標はナマエの奪還だが、これは戦争だ。ライナーとベルトルトそして奴らの仲間を追う。エレン、ミカサ、アルミン。それからお前らも来るな?」

お前ら、と睨みの効いた視線で指されたジャン、コニー、サシャは神妙に頷いた。そして。

「ちょっと待ってくれ兵士長さん。コイツと私はここに残る」

ヒストリアの肩を抱きながら急に現れたのはユミルだった。

「ユミル!よかった、無事だったのね……」

「ああ。お前を残して行くわけないだろ。エルヴィン団長、私はマーレから来たんだ。出来る限りの事は話す。処分も厭わない。でもそれは全て、ヒストリアを守るためだ」

エレンが「お前」とユミルに掴みかかろうとする。しかしエルヴィンはそれをやんわりと制止し「わかった」と答えた。

「詳しく話を聞こう。しかしこの場の制圧が終わってからだ。君も戦えるね?ユミル」

「ああ。私はヒストリアの為に戦う」

「ユミル……」

どこか癪全としない様子であったものの、エレンはすぐに「兵長」とリヴァイへ向き直った。

「行きましょう。姉ちゃんを取り戻しに」

「ああ。お前らの乗って来た軍用車両を使う。ガソリンはまだいけるか?」

ジャンが「行けます」と返事をすると、急ごしらえの新リヴァイ班は次々に車両へと乗り込んだのだった。


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