「青峰君のこと、まだ好きなんですか?」と淡々と言った黒子の声が頭から離れない。
中学の時、偶々、男子と女子で体育館を使う体育の授業あった。
男子はバスケの授業だった。当時、キセキの時代の肩書きを持っていた青峰は凄いプレイをしていた。私はボギャブラリーが少ないので彼のプレイを単純に凄いとしか言い表せないのだけど、コートにいた誰よりも青峰が輝いていて私は目が離せなかった。
その日を境に私は青峰のことばかり考えるようになる。好きな食べ物はなんだとか、なにしてるのかなとか。それはもう恋する乙女のようにだ。挙げ句には、勉強も手に着かず、教師から呼び出しまで食らったのだ。

そして事件は起こる。
6月、蒸し暑くなり始めた頃、私と青峰は始めて会話をした。帰宅しようと、靴を履き替えていると偶然か、神様とやらの悪戯か、青峰がやってきたのだ。彼の姿を見た瞬間ばくばくと心臓が早くなり、スニーカーを持つ手が震えた。
「名字、雨降ってんぞ」
青峰に名前を呼ばれた。名字だけど、当たり前に名字だけど、それだけで、彼が私の名前を知っていたというだけたまらなく甘酸っぱい気持ちになった。
「傘持ってきてないや」彼の顔を直視出来ず、少し伸びた前髪を弄る。
すると、視界に褐色の腕がにゅ、と伸びてきた。
手にはビニールの透明傘が握られていた。思わず青峰を見る。
「やるよ」
青い瞳に吸い込まれそうだった。顔が熱い、きっと真っ赤だろう。また前髪を弄る。
「ありがと、」声が震える。少しだけ触れた手に、思わず傘を落としそうになった。
「じゃあな」とはにかんだ彼を今でも鮮明に思い出すことが出来る。そこまで思い出して、無我夢中で青峰に恋していた自分に赤面した。
結局、会話はあの時だけだのだが…。
何度か傘を返すのをキッカケに話しかけようとしたのだか、色々考え出すと止まらず、いつも諦めた。なんとも情けない。

現在進行形で、彼に恋をしているかと聞かれる違うと答えたい
。ちゃんとした会話は一度だけ。高校も別々になり、相手は自分のことを覚えていないかもしれない。それでも、まだ好きだなんて不毛すぎやしないか。
誰もが戻りたいと願う青春時代をそんな彼に捧げる気などさらさらない。
しかし、彼の名前を聞いただけでばくばくと脈打つ心臓。
まだ彼を忘れられずにいる。「じゃあな」とはにかんだように笑った顔も、一度しか使わなかった傘も全て、過去のモノとして処分出来ない自分に吐き気がする。
期待しているのだ。もう一度、会話することを、彼が私を覚えていることを。



ぽつりぽつりと並ぶ街灯は私の影を後ろに伸ばす。向かいから影伸びてきて反射的に顔を上げると、心の何処かで会いたいと願っていた彼がいた。
「……あお、みね?」私の喉から絞り出すように出た名前は、淡い期待を孕んでいた。
彼は私の顔を見ると、酷く驚いたような表情になった。
お互い無言で立ち止まる。
何か言おうと息を吸うがカラカラに渇いた喉からひゅうと空気がでただけだった。
「…名字」彼の口が私の名前を紡ぐ。走り出したい衝動に駆られた。
覚えていてくれたことが、たまらなく嬉しい。
「久しぶりだね」
「そうだな」
声が震えていたのはバレていないだろうか。あの時のようにまた、前髪を触った。
沈黙が落ちてくる。
予想していなかった展開に、慌てる。ばくばくと心臓が煩い。彼との距離約3メールとちょっと。
「…少し話さねえ?」沈黙を破った彼は、私が通り過ぎた公園を指差した。
彼が当たり前のようにブランコに腰掛けたので、私も隣のブランコに座った。キィと音がする。肌に触れる空気が冷たい。
公園に着くまで、着いてからも会話はない。私は彼の少し後ろを歩くだけでいっぱいいっぱいで、今も手を伸ばせば届く距離に青峰がいるので心臓が煩い。
青峰は、なんで私と話しをしようと思ったのか、今更傘を返せはないとは思うが、少し期待してしまってる自分がいた。

「誠凜?」
「うん、青峰は桐皇だっけ?」
青峰が沈黙を破る。
緊張しているのがバレないように、声が上擦らないように答える。
「そ、バスケの推薦」
青峰は星の出ていない空を見ている。
「青峰バスケ凄いもんね」
「そうか」
彼の纏う雰囲気が変わる。不味いことを言ったんだろうか、変な汗が背中を伝う。手のひらは手汗でびっしょりだ。
「一回、見たことあるけど凄いかっこよかった」
おいおい、私は何を言ってるんだ。更に顔に熱が集まるのでマフラーで埋めた。
「まじ?」青峰がこちらに顔を向けた。「まじまじ」前髪を弄る。
「なあ、」
青峰の声が、妙にデカくなった。
「メアド教えてくんねぇ?」
思わず頷いた。
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