「氷室ー!」

次にやって来たのは二年生の教室だった。「もうさ、よくない?」といくら彼に問いかけても答えはノー。絶対見つけ出す、と差出人捜しに燃えていた。その手紙を書いたのはあたしなんだよ。と言えたらどれだけ楽だろう。しかし、ラブレターの内容からそれは一種の羞恥プレイにしかならないだろう。福井はきっと笑う。それは、絶対に堪えれない。なにより、今更この関係を壊す事に恐怖さえ感じているのだ。自分のした行動が如何に軽率だったか、この行為の重さが今頃あたしに降って来た。
福井に名前を呼ばれて、教室から出て来たのは、帰国子女のイケメンで有名な男の子だった。

「どうしたんですか?」
「ラブレターの差出人捜してんだよ」

福井は、一連のことを説明する。氷室君は、福井の話を聞くやいなや目を輝かせた。なにコイツ、とあたしと福井の気持ちはシンクロした。「先輩!」氷室君に手を握られた若干引き顔な福井。すると、氷室君は熱く語りだしたのだ。流石の福井も後輩のいきなりの変貌っぷりにたじたじである。

「福井先輩!それはきっと、わたしを捜して、という意思表示です!差出人はきっと、自分が書いたとばれるのが恥ずかしい。だから、名前を書かなかった!」
「お、おう」
「(ええええ、名前書き忘れただけだし)」
「きっと、先輩の身近な女性だと思いますよ」

氷室君が素敵な笑顔で爆弾を落とす。氷室君の力説のお陰で、福井は妙に納得した顔をしていた。ますます、自分が書いたと名乗りづらくなる状況が出来あがってくる。すると、氷室くんはいつの間にか福井が持っていた、ラブレターを読んでいた。ひっと引きつった声が喉の奥で鳴る。それに気付いたのか氷室君は女の子ならひとたまりもないであろう悩殺スマイルをあたしに向ける。ぞわぞわと、嫌な予感が全身を駆ける。そして、また爆弾を落とした。

「きっとこの文章を書いた女性、先輩のことが好きで好きでたまらないんでしょうね」

「ばっ、なに言ってんだよ!」顔を赤らめた福井が、ラブレターを取り返すのを視界の隅っこに見た。
氷室君はあたしがこのラブレターの差出人である事を知っている。さっきの一言で直感した。悪戯っ子のように笑う氷室君に殺意が芽生えた。ますますバレるわけにはいけない。


「次行くわ」と福井が歩き出した後ろで、あたしは氷室君に中指を立ててやった。すると、彼は頑張ってください、とひらひら手を振って笑っただけだった。
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