「…誠凜すごいね」

あたしが呟いた言葉で、敦の眉間にシワが寄る。敦はあたしの口から男の名前が出るのを酷く嫌がるのだ。
前、敦が秋田から帰省した時、中学の時の話しになって「黒子くんまだバスケやってるのかな」と聞いたら、敦は今のように眉間にシワを寄せ、背筋に鳥肌が立つほどの甘い声で「オレ以外の男の名前なんか言っちゃダメでしょ」と言った。普段なら嬉しいはずの甘い声も、その時は恐怖でしかなかった。だって、手に持っていた彼の好物である、まいう棒が握り潰されていた。くしゃくしゃ、軽やかな音を立てて原形を失ったそれは、まるで次はお前だとでも言っているようだった。

わかって頂けたと思うが、敦は本当に嫉妬深い。だから、今も敦のライバルチームである誠凜高校を褒めたせいで彼の手の中にある、まいう棒が潰されている。

「は?なんて言ったの」
「誠凜の人すごいねって」

それが?とでも言わんばかりにあたしは惚ける。いい加減疲れたのだ、敦の嫉妬深さには。毎日電話をかけてきては「今日も男と喋ったりしてないよね〜?」と聞いてくる。彼は成長しない。あたしが自分の物だと勘違いしているのだ。

「意味わかんないんだけど。あいつら才能もないくせに努力なんかして馬鹿みたいじゃん。あんな奴らがいいの?」
「そういう、好きとかの話しじゃなくて、純粋にあたしは、勝つ為に頑張ってるあの人たちがすごいな、て思っただけ」
「つーか、いつも言ってんじゃんお前は、オレ以外の男と関わっちゃダメだって」
「関わってないし、純粋な感想」
「だから、そーいうのもダメだって気づけよ」
「は?」

ピリピリとした空気があたしたちを取り囲む。むかつく、別にあたしは悪いことしてない。敦が自分の所有物のようにあたしを扱うのが気に入らないのだけなのだ。自分ばっかり束縛して敦は他の女の子お菓子を貰って楽しそうに話しをしてたりする。意味が分からない。
なんで、あたしばっかり。お腹の中が黒く塗りつぶされたような感覚、気持ち悪い。もやもやしかない。
あたしより上にある敦の頭が降りてきた。ぎっとあたしは睨みつける。

「なんなの?はいはいって、いつもみたいにオレの言うことだけ聞いとけばいいの」
「だから、あたしは敦の物じゃないし」
「いや、物だし」

流石のあたしもキレた。頭に血が上る。意味わかんない。敦を思いっきり突き飛ばしてリノリウムの床を蹴った。よろけた敦は長い腕であたしを掴もうとはせず、うんざりとした表情であたしを睨みつけただけだった。
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