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わたしの肩を掴む力がまた強まった。生温い風が路地を駆け抜ける。この無数の巨人がウォール・ローゼに侵攻して来ているという状況でこうも余裕を持って行動できているのは彼自身がこの惨状を引き起こした張本人であるからなのだろうか。彼の心境なんかさっぱり分からないが今のわたしが彼よりも圧倒的危機的状況に立たされているということは間違いないだろう。

「ベルトルト、痛いよ」

わたしの視界よりもかなり上の方に位置するその顔を見つめてそう言うと彼はぐしゃぐしゃに顔を歪めた。まるで何かに耐えるように。今にも感情が爆発してしまいそうな彼はまたわたしの肩を掴む力を強めた。彼の大きな手が骨と骨の間にまで食い込んでしまってとても痛い。

「なんで裏切ろうとしたんだ」

「なんで」

彼の質問を繰り返そうとしたら顎を掴まれて思いっきり後頭部をわたしの背後にあった建物に叩き付けられてしまった。痛い。首筋がやけに暖かく感じるのは血でも流れ出てしまっているからだろうか。まあ今はそんなことはどうでもいい。先ほどわたしの頭を叩き付ける際にようやく離れてくれた彼の手に少しだけすっきりした。

「みんなには悪いと思ってる。ちょっと急ぎすぎた」

「みんなっていうのは誰のことを指すんだ、ナマエ」

「ライナー、ベルトルト、アニ。それがみんなだよ」

大きく振り上げられた手に痛みを覚悟するがそれは振り下ろされることなくゆっくりと元の位置へと戻っていった。その際ベルトルトの手が少し震えていたような気がする。だがわたしだってなにも考えずに行動に至ったわけじゃない。考えて考えて考えた末に彼らを切り捨てるという結論にたどり着いたのだ。

「本気で言ってる?」

「うん」

「ねえ。そうしたらナマエはここで死ななきゃいけないんだよ」

「そうだね。ベルトルトはわたしを殺さなきゃいけない」

わたしとライナーとベルトルトとアニ。わたし達四人は同郷出身で人類を滅亡させるために訓練兵となった。だけど巨人で言えば奇行種、というのだろうか。わたしは壁の中で過ごしているうちにこの限られた空間の中で慎ましく生きている人々をなぜみんな殺さなきゃいけないのかわからなくなってしまったのだ。今だって侵攻してきた巨人に食べられている罪のない人がいる。わたしにはその意味が分からない。だからわたしは幼馴染たちを切り捨て、上部の人間に内部申告しようとしたのだ。まあこうしてあっさりとベルトルトに捕まってしまったのだけれど。昔からわたしと彼は仲が良くて、相手の考えていることとかがなんとなくわかってしまう時があったけれどまさかこうなってしまうなんて夢にも思わなかった。いつの間にか正義というものがさっぱり分からなくなってしまったわたしだけど自分を殺してまで生きていたくなかったんだ。ああ。これからみんなに殺される人類の皆さんごめんなさい。

「ね、ベルトルト。わたしを食べてよ」

「僕も、…そう思っていたところだよ」



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テーマ「人外ファンタジー」
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