小説 | ナノ



*大学生同棲柳赤





12月の下旬、月末であるということだけでなく、年の瀬でもあるということで街はどこかせわしない。「お坊さんも走るから師走なんだ」って柳さんが昔言ってたような。あれ、違ったっけ?とにかく今は、街のサラリーマンよりも、OLのお姉さんよりも、お坊さん寄りも俺は急いでいる自信がある。だって今日は、学会の発表から柳さんが帰ってくる日だから。




正月も3日前に迫った今日、俺は派遣バイトをしていた。今日はビールの販売。仕事的には楽だったけれど、とにかく寒くて寒くて仕方がなかった。足の裏とおなかと背中にカイロを貼って行ったけど全くもって無意味だった。おそらくこんな寒い状況に立たされることはこれからないだろう。身体の奥底まで冷え切っているせいで、駅から自宅に急いで歩いている足もうまく動かせないし、「もう家に向かって歩いています」、たったこれだけのメールさえ打てそうにない。途中、ホットミルクティーを買ってみたものの、身体を温めることは不可能だった。とにかく寒い、むしろ痛い。早く家に帰りたい。そして早く柳さんに会いたい。身体を必死で動かす。




家の前にやっとたどり着く(実際の距離はそれほどでもないが、今日の俺にとっては地獄のようだった)。ドアを開けようとノブに手を伸ばした瞬間、内側からいきなりドアが開かれた。外開きのドアに思わず「ぅわ!」と声が出てしまった。



「おかえり、赤也。遅かったな、寒かっただろう。お風呂先に入らせてもらったぞ」


そういってドアを開けてくれたのは柳さんで。



「・・・ただいまっす!!!!」


そういって勢いのままに抱き着こうとしたものの。というか、今日の朝まではそうするつもりでいたのに。飛びつこうとした体をきゅっと止める。


「?どうしたんだ」


先ほどの柳さんの言葉通り、お風呂に上がってすぐ様子の柳さんからはいい匂いがするし、髪も少ししっとりしているし、何よりいつもより少し赤い頬がそれを物語っていた。そんな身体に、むらむらしないはずもなく、正直ほんとに飛びつきたくてたまらない。だけど、この体温の俺が抱き着いてしまえば、すぐに体が冷えてしまうだろう。彼が風邪をひいて辛そうなところなんて見たくない。なんでもないフリを装って言葉を紡ぐ。



「なんでもないっすよー!ほんと外寒くって寒くって、イヤんなりますよね・・っくしゅ!」


くしゃみをして気づく。そろそろ本気でやばいのかもしれない早くあったまろう、そう思って奥に入ろうとした瞬間、手を引かれ気づけばそこは柳さんの腕の中で。


「なんだ、この冷たい体は・・・」


彼の胸元からそっと顔を上げると、驚きのあまり彼の眼が開いている。そんなに驚くんすか。すっげ、寒かったんっすよっ、そう小さくつぶやくとぎゅうっと自分の体温を分け与えるように、いろいろなところをさすっては抱きしめてくる。確かにあったかいし、慣れたこのポジションはとても心地がいいものだ。けれども。


「ちょっと、そんなことしたら、柳さんの身体冷えちまうっすから!いやっすよ、風邪ひくアンタ見るの」


「これくらい大丈夫だ、なんならもう一度2人でお風呂に入ればいいだけのこと。」


抱きしめられたままほぼ引き摺られるような形で部屋の奥へ進み、2人でベッドにダイブ。冷たい、そういいながら頬や瞼、額など顔中のいたるところに、まるでキスで温めるのかのように唇を落とし始め、さらには首筋にまで範囲を広げ始めた。


「っん、寒いし、俺冷たいから、待って、柳さんっ・・・!」


「こうして温めていくのも悪くないだろう?それに、」


今日は久しぶりなんだぞ?


俺の顔の横に肘をつき髪で遊びつつ、こつんと額と額を合わせニヤリと笑う彼。

間近でそんな笑顔を見て俺だって火が点かないわけがない。ただでさえ、お風呂上がりの柳さんにむらむらしていたのだから。でも素直に受け入れるのは悔しいからちょっとした抵抗を。


「・・・風邪ひいたら柳さんの責任っすから」

「そうなったときはベッドで共に過ごせばいいだろう」

「・・・そっすね」


一蹴され気づく。やっぱ口で勝てるはずがない。








確かにその時は、彼の体温を受け取って身体は温かくなったものの。翌日、共に悪寒と頭痛に襲われたのは言うまでもない。











*年末の悠亜と赤也君を重ねてみました。あたしにはそんな人いないけどな!


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