小説 | ナノ



「何を見ているんだ?」


赤也の部活終了を見計らって部室へ向かうと、赤也が一人でうんうんと何かを見つめながら唸っていた。今日は引退してしまった俺と赤也が一緒に帰る約束をしている日だ。


「あっ柳先輩!これ、女子から見せてもらったんすけど・・・どう思います?」


ばっと勢いよく目の前に出された紙といきなりの質問にさすがの俺もぽかんと口をあけてしまう。赤也は俺の予想の斜め上を行く。


「どうって・・・・どういうことだ?」


「俺にはこれ、柳先輩と俺のように思えるんです。」


いや、斜め上以上だった。しかしなんとなく、考えていることが分かった気がする。


「――――そうか。・・・・どういうところが俺と赤也のように見えるんだ?」


いわれてみると俺にも少しそのように見えてきたのだ。もっとも、解釈は彼とは違うだろうが。



俺の質問に答えようとする赤也の顔が少し切なげなものになった。



「どれだけアンタのそばにいたいと願っても叶わない、どれだけ手を伸ばしても届かない・・・そんな風に思ったっす。ほらこっち・・・・白い方のリス、水玉の方へ向かって飛んでるでしょ。でも水玉のリスのいるところには届かない。――――居る場所が違うから。・・・・・・アンタの隣に立ちたいって隣にいたいって、そう必死になってるのは俺だけで、先輩はいっつも何も言ってくれなくて、俺ばっかりがそう願ってるみたいでっ!ただでさえ一つ年齢が違うんだ、もうすぐアンタは卒業して、もっと、もっと・・・」




届かないじゃないっすか




言いながら彼の声は震え、表情も切なそうなものから辛そうなものへと変わり、最後の言葉は、震える声を耐えるように吐き出されたほとんど息のような音だった。二人っきりでない空間であればかき消されてしまっていただろう。



赤也のこんな表情はいつまでも見ていたいものじゃない。一度深く息を吸い込む。


「俺だって」



そんな風に思っているのはお前だけじゃない、とうまく伝えられるだろうか。



「――――俺だって、赤也の隣にいたいと願ってるし、いつまでもお前が来るのを待ってる。赤也が来たのならいつだって受け止める。今まで何も言わずともそうだっただろう。見てみろ、このリスだって身体は白いリスの方に向いている。俺はいつだって赤也を見ている。俺が何も言わないのは、赤也がいつもくれるから。」


「・・・うん」


じっと赤也の方を見ながら伝えると、少しずつ近づいてくる。



「俺たちの関係は変わらない。卒業しても大丈夫だ。・・・・・お前が不安になると俺まで不安になる。」


軽く笑って言ってやると、赤也は椅子に座っている俺のおでこに軽く唇を押し付けた。



「何も心配しなくても、こうしているときは俺たちは同じ場所にいるのだと思うのだが。」


「そっすね。・・せんぱい、ごめんなさい」


「これからも俺を捕まえていてくれるだろう?」


「もちろんっす」


「なら許す」


次はにやりと猛禽類のような顔になった。俺が好きなこの表情もいつの間にか男らしくなっていて、ドキリとした。強請るように少し顔を上げれば、願いどおり唇にキスが落とされた。






「ところで、先輩はこれ見てどんなふうに思います?」


俺を床へ下ろし、前から抱きしめながら上目遣いで問うてくる。その瞳には好奇心とわずかな期待が見え隠れしている。そんな赤也に、ひとり暗くて深い孤独の世界に溺れていた俺を、共に生きようと明るい世界へ連れ出してくれた赤也のように見えた、などと言えば次はどんな顔を見せてくれるのだろう。









@Melcyの凛さんからお誘いいただいた企画の小説です。



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