「2人でどっか遠いところ行きません?」
「・・・は?」
「ま、嫌がっても連れて行きますけどね」
ニッと笑いながらそう言われたのが三日ほど前、そして赤也が「迎えに来ました!」と元気に俺の家を訪ねてきたのが今日の朝の10時ごろ。そのまま駅に向かい、赤也が買ってくれた切符を持ち、電車に乗り込んだ。切符の値段を見るとそれはかなり遠くの区間までのものだ。
「どこまで行くつもりなんだ?」
「特に決めてないっす、どっか行きたいところあります?」
「俺はお前に連れ出されたんだが」
「ははっ、そうでしたね
じゃあ、まったく知らないところ、行きましょっか」
思うままに電車を乗り継いで、景色が山に近づいてきたあたりで降りた。人の姿はまばらである。自分たちの生活している海側の街とは違う香りがした。
また、あてもなく歩く。
その間に会話が特にあるわけでもなかったが、いつもと違う景色が心地よかった。心をそちらに奪われていると、「あ、」と小さく赤也が声を上げた。
「あそこに標識立ってるんすけど、・・・何か公園あるみたいですね」
「そうみたいだな・・行ってみるか」
標識に従い、少し進んでいけばそこに広がっていたのは、地面を覆い尽くすほどの芝生やクローバーが生い茂る、草原のような場所だった。
「すっげえ・・・!柳さん!こんなとこ、俺はじめて!」
そういって一気に駆け出していく、赤也に歩いてついていく。既に日も高く昇っていて、少し風があってポカポカと気持ちがいい。やっと追いついた赤也は、座り込んで何かを見ている。
「何か気になるものでもあったのか?」
「・・この花、柳さんに似合うかなあ?それともあっちに咲いてるやつがいいかな?」
そう言って、うんうん呻って悩んでいる姿があまりに面白かったので吹き出してしまった。
「どちらも特に似合わないだろう」
「うーん・・・いやこっちっすね。んっしょっと・・・はい、可愛い」
同じ目線にしゃがみ込んだ俺の頭に、結局はじめに見つけた花を取って乗せた。その花は、俺がふるふるっと頭を振ればすぐに落ちてしまった。
「俺の髪はサラサラだからな。赤也の髪ならしばらく持ちそうだが」
「あ、そんなこという」
「ほら、お前の方が似合うさ」
「似合わないっす!もう一回、柳さんつけて」
そんなやり取りをしながら、二人でじゃれあっていた。やはり、この辺りにはもともと人が少ないのだろうか、こんなに天気がいいのに、周りに俺たち以外の人はいない。
――――こうして赤也と触れ合うのはいつ振りだろう。お互いの生活時間があまりに違いすぎた。同じ高校で同じ部活といっても、中学の頃のようにはいかなかった。中学の頃のように赤也が"後輩"の仮面をつけて抱きついてくることはあったとしても、だ。もっと話したい、もっと近くに行きたい、二人で過ごしたい。しかし気持ちは募るだけで、どうしようもできなかった。
「ねえ、柳さん」
少し意識を別の場所に飛ばしていた俺を呼ぶと、こう続けた。
「人はね、思ってるほど強くないですよ。思ってる以上に泣き虫なこともあると思います。・・・・だからさ、柳さんも我慢しないでいいっすよ」
「っなに・・・?」
「今日どこか遠いところへ行こうって、俺が耐えられなくなっちゃったのもあるんすけど、アンタはどうなんだろうって考えて。俺は中学の頃みたいに、後輩面して先輩に抱き着くことも甘えることもできるけど、柳さんはできないでしょ?」
優しい笑みを浮かべながら、俺を包み込むように抱きしめる赤也。いつの間にか、身体がこんなにしっかりしている。
「もっと俺が頭良かったり、精神的にしっかりしてたら、柳さんのこともっと大事にしてあげられるのに、支えてあげられるのに。・・・ごめんなさい、いつも我慢ばっかりさせちゃって。俺、アンタが本気でちゃんと笑って泣けるような場所になるから、だから・・・・俺の前では我慢しないで。」
「・・っぜんぶ、わかったのか」
「うん。どれだけ一緒にいると思ってるの、もうわかるよアンタが何考えてるかくらい。」
「そうか・・・・赤也、まだお前を好きでいていいのか」
「もちろんっす、離れるなんて許さない」
今までの分を埋めるように、押し付けられた唇が心地よかった。
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超久しぶりの更新です!
BUMPのとっておきの唄をちょっとイメージしてます。
「柳さんに似合うかなあ」って頭をひねる赤也が容易に想像できたもので。そして終わりがなんだ微妙な気もしますがこれはこれでアリかなと思ってますが・・・そうでもないかな?
今回のお話は高校生あたりの二人です。本文にも出てきますが。中学の頃のように部活ばかりというわけにはいかないですからね・・・勉強大事。
赤也は本当に男前に成長すると思います、精神的にも外見的な意味でも。きっと精神的に大人になった赤也には柳さんも甘えるだろうです。そうしてその甘えを受け止めてあげてほしいです。きっと甘え下手だから。