小説 | ナノ



梅雨入り宣言が出された次の日、今日はあの人の誕生日だ。


昨日の天気予報通り、今日の天気は雨。
テニスコートにはたくさん水たまりがあるし、止む気配もなかったので、今日の部活は筋トレだけして、その後レギュラーと次の練習試合についてのミーティングして、それで終わった。

いつも家に帰る時間よりもだいぶ早い時間。こんな日には早く家に帰ればいいのに、なんとなくそんな気にはならなくて、自分の教室へ行った。そう、去年あの人が1年を過ごした教室と同じ、3-Fへ。



自分の席ではなくって、あの人の特等席のようになっていた窓際の席へ座った。

窓が閉まっているからザーザーという雨音が籠もって聞こえる。教室に一人。机に顔を伏せて考える。


――――去年なら、いつもなんでも先読みするあの人を驚かせるためにレギュラーみんなでサプライズパーティーしたのに。去年なら、その後にあの人のうちに行ってもう一度二人でお祝いして、去年なら・・・・


「は、もう、いねえんだっつの・・・」


自嘲するように言い、ふぅ・・・と息をつく。腕を組みかえ、窓の方に顔の向きを変えた。雨はやはり止みそうにない。


あの人がいない学校生活ももう2か月過ぎた。そろそろ慣れなければいけないはずなのに、心に溢れる想いはそれとはまったく別モノで。


「あいたい・・・っ」


本当は、会っておめでとうって言いたい。でも忙しいって言ってたから、会いたいって言っても会えない確率の方が高い。勝手にそう思い込んで、会いたいとは一度も言わなかった。電話もしていない。だってあの人の邪魔はしたくないから。そんなこんなで卒業後会えていない、柳先輩。

心の声を漏らすと同時に溢れてきた涙は、2か月間溜まっていたものなのだろう、なかなか止まらない。今日は思う存分に泣いてしまおう、そう思い目を閉じた。





「今日こそは会いに来てくれると思っていたんだがな」


目を閉じた瞬間に、教室の後ろから聞こえたのは聞き間違いじゃない、ずっと聞きたかった柳先輩の声。驚いて涙も止まってしまった。


「え、なんで・・・」

「さあ、なんでだと思う?」

「だって、部活・・は?」

「相変わらずバカなのかお前は。この天気だ、俺達もないに決まっているだろう。」


ふっと微笑みながらそう言い、俺に近づいてくる。先輩の顔は見たいけど泣いた跡のある顔は見られたくない。ふいっと顔をそらす。


「ほんとなんで来たんすか?」

「赤也に会いに」

「・・っ」

ささやかれた耳元が熱い


「メールでおめでとうと言われるのもうれしいが、やはり直接聞きたくなってな。それと、誕生日プレゼントをもらおうかとも思ってな。」

「・・・・・俺、今年まだ「なにも用意できてないっすよ、とお前は言うだろう。だがそうは言うものの、本当は家にあるのだろう。俺にどうやって渡すか考えた末、持ってこなかった。違うか?」

「・・」


なんでわかっちゃうんだこの人には。そう思っていると柳先輩に手を引かれ、彼の膝の上に向かい合うように座らされた。もう泣き顔は隠せなかった。


「・・・・こんな風に1人で泣くなら素直に会いたいといえばいいだろう」

「だって、」

「・・・俺は、赤也が用意してくれたプレゼントも嬉しいが、もう一つ欲しいものがある。」

「なんすか・・・?」


先輩の欲しいものなんて。


「赤也のわがままが欲しい」

「・・・は?」


まったく意味が解らない。


「俺に一度も会いたいと言ってこないのは、赤也が忙しいこともあったのだろうが、大方俺に遠慮しているところもあったのだろう。そんな必要は全くない、お前が会いたいといえば時間など作ってやる。それに、赤也の我儘が聞けないのは寂しいんだ。もっと俺に甘えればいい。」


涙の跡をなぞるように軽く唇をあてていく。くすぐったくって心地いいけど、一つの疑問が苛立ちとともに芽生えた。


「・・・っんすか、それ。自分がかなり無茶苦茶なこと言ってんの、わかってます?」

「そうか?」

「俺が会いたいって言わなきゃ会わないの?先輩からは言ってくれないの?」

「お前から聞きたい」

「俺だって先輩から聞きたいっす」

「俺が言うと毎日になるぞ」

「そんなの、俺もっすけど」


なに、この人。俺にばっかり求めてきて。


「もっと我儘になればいい、俺に頼れ。・・・赤也に甘えてもらえないだけで、こんなに日常が味気ないものになるとは思わなかった。」

「! せんぱ・・っ」

「部長、大変だろう?大丈夫としか言わないし、メールしか送ってこないし、本当に心配した。・・・しかし、確かに早く俺から会いにきてやればよかったな。泣かせてすまない」


ぎゅうっと会えなかった分を埋めるように抱きしめられて愛おしそうに髪を撫でるものだから。


「・・会いたいって言ってもいいの?電話したいって毎日言ってもいい?・・部長疲れた、助けて、って言っても怒らない?」

「ああ、勿論。それが俺の欲しいものだ。一年後にまた更新だぞ。部長のことに関しては精市や弦一郎の耳に入ればどうなるかはわからないがな」

「言わないでくださいよ!!ていうか、先輩からも連絡ちょうだい」

「気が向けばな」

「なにそれまじひでぇ」

「赤也がしてくれるだろう」

「だから俺からばっかじゃやだって」

「五月蝿い口だな」

「っん、」


誤魔化すように塞がれた唇にまた少し苛立ちを感じたけど、久しぶりに会えたことの喜びの方が大きい。もういいや、俺からばっかでもこうして触れ合えるなら。



「たんじょーびおめでと、先輩、だいすき」

「ああ、ありがとう、赤也」



それで俺に優しく笑いかけてくれるなら、もうなんだっていいや














遅刻も遅刻でもうほんと・・・!!!!!!!
愛は詰めた。でもまとまらなかった。高校に行った柳さんと中3の赤也くんのお話でした。春の忙しさは半端ないですよ・・・!!

離れて寂しさを感じてるのは意外と柳さんならいい。高1柳×中3赤也になると柳さんのが子供っぽくなればいいと思ってる。というか年を重ねるにつれて、赤也に対して我儘な柳さん萌え・・・!!!!!


最後までありがとうございました!




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