ふと、こういう思考に走るときがある。
それは突然現れ、また突然と消えてしまうものなのだけれど。
俺はこの世界に必要なのか。つまり、自分の存在価値。
俺には何もないのだ。ただ人を観察し、データを取り、それに基づいて行動するだけ。自分の意思がそこにあるのか、性格なのか、無意識なのか、それももうわからない。俺は、無機質なデータに頼るしかできない人間なのではないだろうか。そばにいる友人も、仲間も、データの材料に過ぎないのではないか、そこまで考えてしまえばそんな自分が嫌いになるのは当たり前だろう。
俺にはやはり何も、ない
「・・・柳さん、最近なにかありました?」
昼休み、屋上で一緒に昼食を食べているときだった。
「なんか悩んでないっすか?」
「・・・そう見えるか」
「柳さんのことなら、わかりますよ」
心配そうに俺の顔を見上げる赤也に、こんなことを話すべきではない、そうわかってはいるのに、赤也なら。赤也なら受け止めてくれるだろうか。そう思うと同時に思考は音となっていた。
「・・・・俺には何もない、」
そういったところで不思議そうに目を丸くし、何か言葉を発しようとした赤也をさえぎるように言葉をつなげた。
「俺は、ただデータを取ることしかできない。テニスのプレイスタイルもデータで行う。性格だって、よく話すわけでもない、友人が多いわけでもない、ただ理屈っぽいだけの、思考の塊だ。優等生だなんてみんなはよく言うが・・・そんなことは大したことじゃあないだろう。本を読み、テニスをして、データを集める。俺にはそれしかできない。・・・こんな俺に存在価値などあるのだろうか」
自分を嘲るように笑いながら一息で言い切り、赤也のほうに視線を向けると、大きな瞳からぼろぼろと涙をこぼしていた。
「あか・・っ」
「やなぎさんは!」
涙を溜めながらもまっすぐな視線でこちらを捉え、強い口調で話し始めた。
「俺にないもの全部持っててそんなこと言うんすか!ずるいっすよ!!データばっかりでも、理屈っぽくても、あんまり話さなくっても・・・っ!そんなこと以上にいっぱいいろんないいところ俺知ってる!・・・・それに、おれはっ・・・そんな柳さんが好きなのに・・!・・・・・・俺が好きな柳さんを否定しないで・・・っ」
言い切るとまた、大粒の涙をこぼし始めた。その涙を拭い、隠すために腕で顔を覆ってしまった赤也を見ていることなんかはできなくて、前からそっと抱きしめた。すると急に膝で立ち、首にぎゅうっと抱きついてきた。
「俺だってね、何もないっす。まだあんたたち倒せないし、バカだし、人を傷つけるプレイしかできないし・・・・でも、」
ふ、と軽く息を吐いて俺に目線を合わせてきた。
「だから俺には柳さんがいるんでしょ?俺にないもの全部、柳さんがカバーしてくれる。
友人が多くないなんて、幸村部長とか真田副部長、ほかのレギュラーの先輩たちとの仲は深いでしょ、それでいいじゃないっすか。柳さんがいっぱい話さないなら俺が柳さんの分まで話すから。ほかにも俺が柳さんにないところ、ずっとカバーしてあげる。」
そういって額にキスをした。
「それじゃダメっすか?足りない?」
不安げに尋ねてくる赤也がどうしようもなく愛おしく感じた。
「そうだな・・・・今はまだ足りないが、一生かけて補ってもらうとしようか」
俺のことを好きだと告げる唇に優しく自分のそれを重ねた。
赤也が好きだと言ってくれるのなら、何もない自分も悪くない。
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なんだ、書きたかった感じに仕上がらなかった・・・・
自分が嫌いな柳さんっていいと思った。でも柳さんって結構ナルシストな面を持ってると思うし、あたし自身が柳さんの悪いところを見つけられんくてこんなことに。赤也に「俺が好きな柳さんを〜」のセリフが言わせれたから満足かな