ノラ猫の甘やかし方 | ナノ
Encounter
あの人との出逢いは本当に単純だった。

それにはまず、私の事を説明することから始める。

私の家は問題だらけだった。
私のお母さんは毎日お父さんからDV被害を受けていた。
私はただ、その2人のストレス解消アイテムだけに生まれた様なもの。
自然と笑顔は無くなり、学校ではいじめられていた。
いつも家では空気で居ることが自分の身を守る術だった。

ある日。いつもの様に夜中に父親と問題が起き、家を追い出されたから近くの公園のブランコに座っていた。

生きる意味が分からなくて、いつも冷めきった目をしていた。
周りの"家族"らしい親子を観ると嘘の様に見える。
馬鹿らしい。愛なんて感じたことない。
私だって………いいこいいこってされたいだけなんだ。

そこにある青年が隣のブランコにドカッと座ってきた。
思わず隣を見た。

「……家は?」

告げられた一言。
ほっといてとしかあの時思わなかっけど、

「ない。」

慧が話しかけてくれなかったら、今の私はいなかった。本当に。

慧は私が小学生の頃に出会ったひと。私が12歳、慧は18歳。

今でも知らないが慧も慧で事情を抱え、一人暮らしをしていた。
彼は私をいつも家へ連れて行ってくれたし、来ればいいと言ってくれた。
彼は不思議と18歳という歳の割に一人暮らしで大きな部屋に住んでいた。
どんな家庭環境なのかはしらなかったが、それを聞かなかったのは子供心に聞いちゃいけないと思ったから。

私に帰る場所を作ってくれた。

「んで?何その痣。昨日無かったデショ。」
「別に。」
「別に、じゃ無いでしょーが。言ってヨ。」

何かあると必ず抱きしめてくれた。
抱きしめて頭を優しく撫でてくれた。

「……お父さんが私に怒鳴り足らなくて、八つ当たりで友達に初めて貰ったシャーペンを目の前で折られたから、何すんの!って言ったら殴られたの。私が大事にしてた、って知ってたクセに。」
「へぇ。で、どうしちゃったのヨ、それ。」
「ん、……ゴミ箱に捨てられちゃった。」
「ふぅん。じゃあ明日新しいの買ってあげるじゃん。もっと可愛いヤツ。」
「……ありがと。」

毎日一緒にいてくれた。
涙も拭いてくれた。
頭を優しく撫でてくれた。
毎日優しく抱きしめてくれた。

自分が生きてて良かった。って慧に会って初めて知った。

「……慧、好き。」
「ん、俺も好きだヨ。」

特徴的なその話し方が私を安心させる。いつもマイペースで時間を感じさせない。
心を唯一開けるひと。
必然的に恋に落ちるのは時間の問題だった。

好き。…………私を女として見てよ。

そう思ったけど、私にとっては初恋。
どうしたらいいかよく分からなかった。

意識をさせたくて好きと言ったけど、いつも私の好きを家族としての好きとして捉えられてしまった。
そんな辛さがいつも私を襲った。
早く慧の特別になりたかった。

それに慧は私に色んな事を教えてくれた。
勉強はもちろん、スリの仕方、1番大きかったのはコンピュータの扱い方。

ある日、小学校の卒業祝いに慧から一台のパソコンを貰った。
慧はいつもパソコンをつついて何かしていたのだ。

「菜々おめでーと。あげるヨ。」
「これ、……くれるの?いいの?」
「ン。俺の相棒として使えるよーになってネ。」
「……任せて!」

初めて慧に必要とされたと感じた。
いつも家庭環境のせいで泣いてばかりの私に何か出来る、したいと感じさせてくれた。
パソコンを贈ってくれたその日からあらゆる技術を一人の人間として教えてくれた。

そして、運命の高校二年生の時

降谷零と出会った。

ヤツは……モテてた。
二度目の席替えまで気付かなかったけど、隣の席になった彼の周りにはいつも女の子でいっぱいだったし、他のクラスや、上学年のお姉様方までいたし。

お昼になるといつも自分の席は降谷のファンで占領されていたため、
私は必然的に何処かで食べるしか無かった。

持参の弁当を持ってあるお気に入りの場所へ行く。
誰も来ない私だけの場所。

「いただきます。」

菓子パンに被りつこうとした。

「……ここ、座っていいか?」

奴は私の返事を待たずにして目の前に座る。

「許可、出してないんだけど。」
「え、ダメか?」

何故否定され事を考えないだよ。この男は。
自分が世界の女みんなからモテると勘違いしてやがる。

「駄目。群がる女どもと食えばいいじゃない。あんたのせいで私がココで食べるハメになってんの。毎回あんたの自己中に巻き込まれるコッチの身になってみろよ。分かったらどっか行って。」

ご飯を食べならがら奴に言い放つ。
さっさとどっかいけ。ばーか。

でも、暫くしてもなかなか反応が無いから上を見上げた。

「……くっくっくっ。」

必死に抑えながら笑う奴。

「何笑ってるの。笑う要素ないでしょ。あんたがココに1秒でも長く居ることによって毎秒1秒ずつ私に不幸が訪れる可能性が高くなっていくんだから。分かってる……の…」
「アッハッハ!」

降谷の笑い声に私の言葉は掻き消された。

「…………。」

もう知らん。好きにしやがれ面倒くさい。
勝手に放って置くと、降谷はすぐに謝ってきた。

「ごめんごめん。悪かったよ。いや、神木がそんな口の悪い人だとは思わなくってさ。……くっくっく。」

確かに学校では喋らないし、我ながら言うが、この清楚系の見た目でこのギャップ……ってなるのか。

「大丈夫だ。『これからは昼は一人で食べたい』って彼女たちには言ってあるからな。ココには誰にも来させないから。」
「………。」
「信じてくれよ。俺だって毎日あんな香水振り撒いて、ベタベタしてくる女どもから逃れたいんだよ。静かに食事をする権限くらい俺にも欲しいんだ。あと、「あんた」ってやめろよな。俺の名前は降谷零だ。神木の隣の席の降谷零。知らないとは言わせないぞ。」

もう既に目の前に座っている降谷。

「静かに食事したいんでしょ?ならもう名前なんて呼ぶ機会、無いんじゃ無い?ここにいたら静かな食事、出来ないかもしれないわね。」
「むっ。神木って意外と捻くれてるんだな。俺は神木と一緒がいいって思ったんだけど。面白いし、飽きなさそう。」

"一緒がいい"

一緒がいいって言われたのは慧以来だ。
だから、単純に嬉しかったのかもしれない。

「…………好きにすれば。」

そこから始まった零と私の関係。

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