ノラ猫の甘やかし方 | ナノ
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狭い空間。
目の前にはパソコン。

「………やば無意識だ。」

降谷の家を出るといつの間にかネットカフェにきていた。
この黒で統一された壁が私を安心させてくれる。

「やっぱなぁ……、こないだのパソコンをお陀仏にしちゃったのは痛かったよなぁ〜。」

先日の赤井と出会った日の事を思い出す。

せっかくネットカフェに来たのでインキュバスとしての仕事とFBIの赤井に渡す情報集めをする。集める情報が苦でなければ自分で処理するが、ちょっとめんどくさい案件は赤井に調べさせればいい。
面倒くさいやつ押し付けれるってホント楽。
我ながら良い契約をしたと思う。

「赤井嫌がりそうだな〜。俺を使うな、って言いそー。ま。それでも押しつけりゃ良いんだけどネ。契約あるし〜。」

赤井は逆探知されない用のスマホを使ってるから特定するにはかなり時間がかかったけど、なんとか入手した連絡先にそれらの面倒な頼み事と、こちらの連絡先を送る。

数分が経った頃、ようやく返事が返ってきた。

ピコンー

音が鳴ったスマホを急いで手に取る。

『………インキュバスか?』

赤井からだ。
良かった。ちゃんと届いた。

『はいはーい。そうだよ。ちゃんと届いたようだね。良かったー♪』

すぐにメッセージを送る。

『何故俺の連絡先を知ってるんだ?お前に教えてないし、探知できない筈なんだが。』
『えー、バカ?笑笑。調べりゃ分かるって。それに赤井、こないだすぐに寝ちゃったろ?調べないとコンタクト取れないでしょーよ。』

ごめーんね。FBIが丹精込めて作った逆探知機能をおシャンにしちゃったけど許して。

『ほー。俺が寝たのは誰のせいだったかな?』
『はは。ごめんごめん。そう言うなって。』
『それより、俺の情報は他には漏れないんだろうな?』
『ん。それは大丈夫。信用しろ。僕しか見れないように工夫してあるから。』

ふふん。舐めてもらっちゃあ〜困る。

『そうか。ならいい。』

もっと怒るかと思ったけど。
情報の流出の不安要素がなくなりゃ私に連絡先奪われてもいいんかい。

『もうちょっと危機感もとーよ。なんか、盗んだこっちが心配だわ。』

FBIきっての切れ者だと聞いたから赤井を選んだのに。
ちょっと不安になるでしょ。

『ふっ。心配してくれるか。確かに、いくらFBIの切れ者と言っても俺も人の子なんでな。そうならないように守ってくれ。』
『それ、人にモノを頼む態度じゃないんですけど。』

両足を回転椅子の上に乗せ、赤井とトークを続ける。
意外と夢中になっていたようで、ボディーガードが私の食事を持ってきたのに一瞬気付かなかった。

「何か良い事でもあったんですか?」
「………ん?なんで。」
「いえ、ただ菜々様が良い顔して笑っていらしたので。そうかなと。」
「………そう。」

よく見てんなぁ、

「それよりお昼は?」
「はい。バターサンドとイチゴみるくです。本当にこれで良かったんですか?いつもコレばっかりじゃないですか。本当はもっとちゃんと栄養付けなくて欲しいんですけど。今からでも別のもの買ってきますよ?」
「これでいいよ。ありがと。それにずっと離れてちゃボディーガードじゃないデショ。ふふっ。」
「……はぁ。なら最初からサラダとか肉類を頼んで下さい。」
「うん。うん。そうだねー。」

ボディーガードの言葉を軽く受け流す。
それを彼も分かってるから後ろで苦笑いしている。

私にどうしても野菜とかを食べさせたいのか、必ず私の目の前でこれ見よがしにそれらを食べてる。
ちょーっとムカつくのよね。私だって野菜を食べたくないわけじゃない。

バターサンドを口に含む。
………ん。安定の味。

赤井から届くメッセージ

『送られてきた男の画像だが、コイツについて調べろ。という事か?』
『ん。そーゆーコト。何時間あればイイ?』
『……2、3時間ってとこだな。正確なモノがいいんだろう。』
『仕事早ーいネ。なら、6時に米花町のある店に来てヨ。渡したいものあるし。場所は住所を添付しとくからさ。』
『了解。』

スマホの電源を切り、パソコンが乗ってるテーブルの端に置いた。

降谷の事でいっぱいになった頭をどうにかしたくてパソコンをつつきまくったけど、赤井にあげる資料はすぐに出来上がってしまった。

赤井に会うまであと1、2時間ちょっとある。
ボディーガードには駅のロッカーから私の男装道具を取らせに行かした。
だから1人でヒマになると途端に考えてしまう。

「…なんだかなぁ。」

ポケットから取り出したシルバーの鍵を見つめる。

嬉しいんやら戸惑いやら失望やらの感情が複雑に絡み合ってる。

「……愛って、……なんだろね。」

らしくない事を呟く。

一体好きって………いつまで?

降谷は高校………からでしょ?確か2年の時からだから……29−17で12年間くらいか。

12年。

10年以上も私を好きでいてくれていた。
長い。

けどじゃあ、来年は?
いや、……一か月後は?

それとも………3ヶ日後は?もしかしたら私よりも、もっと綺麗な素敵な人に会うかもしれない。

根拠のない愛。
根拠のない想いは…怖い。いつか壊れるから。離れていくから。どんなに愛してる。って伝え合っても、裏切られるんだ。勝手に、突然その幸せは消えていく。
だから今までコッチから脆弱なモノとして扱って来たのに。

所詮愛なんて性欲デショ。
醜いものなんて初めから作らなければいい。

「って思ってたんだけどなぁ。」

だらけていた姿勢を直し、パソコンのキーボードに指を置く。



何かの情報がないかをほぼ毎日調べる。
それが……"あの日"からの日課となってしまった。

"私"………インキュバスが本気で毎回探しているのに痕跡は一切見つからない。
まるでそんな人、初めからいなかったみたい。

私が今、生きてることが彼が生きてた何よりの証拠なのに。

そんなの。一つしかない。
死んだんだ。彼は。

奴らに………黒の組織に。


だから、したい。…………組織に復讐を。


そのために赤井秀一を見つけたんだ。

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