Zero | ナノ

気づけば

俺が元々予約していたホテルに菜々さんを連れてきた。
まさか旅行先のホテルに女の人を連れて来るとは思わなかった。それも逆ナンじゃなくて、自ら誘うなんて。
まぁ、菜々さんはケガを負っていたからであって、疚しい事は無い予定だ。

「へぇ、綺麗なホテル。」

実はこのホテル、ここスペインでもなかなか名の知れた"高級"ホテル。
おそらく彼女が予想してたのはボロっちい小さなホテルだと思っていたのだろう。
正直、純粋な言葉が地味に突き刺さった。

「はい、折角の海外旅行ですから。奮発したんですよ。」

気に入ってもらえたようで何よりです。とまるで新婚旅行の夫婦のように彼女に返す。
今まで組織やら公安やらポアロやらで貯めてきた貯金が中々貯まっていたので使うことにしたのだ。

俺は彼女と自分のドリンクを持ってくる為、一度彼女の元を離れ、部屋内に付属しているミニバーで今日の事。そしてココに至るまでの事を思い出していた。

****

何年もかけて無事に組織を壊滅させることに成功し、俺はバーボンとしての任を解かれた。
そしてすぐに降谷零としての生き方ー公安ーの役職に戻ることが出来た。
地位もあの頃より昇進し、以前よりも部下も増えた。

しかし、あの頃の事を思い出す度に苛まれる。ジンに毎日のように誰かを殺すよう命じられ、何人も殺してきた。
警察という誰かを守る身分の筈なのに、その誰かを守るために誰かを殺した。
組織を壊滅させるため、このやり方が一番手っ取り早く、正しいのだと自分に言い聞かせていても、どうにも理解し難く、苦しんだ日々があった。

又は、失敗は許されないという毎回の緊張感は精神的にやられるし、生きてる心地すら感じないものだった。

「何の為に俺はいるのか?」
「俺は本当に誰かを幸せにしているのか?」

常にその言葉に蝕まれた。
昔はそんなことを考える余裕はあまりなく、行動することで思いを昇華させて来た。
だが、壊滅後はふと「もっとこうすればよかった。」「もっと要領良くしてたら、スコッチだって…」なんて考えてしまい、溜まりに溜まった書類を片付けることでしか、現実逃避が出来無い。

だから、何時間も何日も無我夢中でその書類やらなんやらを片付けていた。
思い出したくなくて。
仕事をしている時だけでもいいから忘れたくて。

ある日パソコンのEnterキーが壊れて風見に直しておくように告げた時だった。

「風見。パソコンのEnterキーが壊れた。直しておいてくれ。その間俺は他のパソコンを使うから。」
「え!降谷さん、そのパソコン、確か先月に買え買えたばっかでしたよね!?」

風見のギョッとした顔を横目に新しいパソコンに手をかけた。そして、起動の合間に積んであった書類にも目を通す。

「それは知らんが、次の書類を持ってきてくれ。もう大半はやってしまったからな。」

その言葉に風見を含めた降谷の部下達が静かに目で合図し、頷いた。

「降谷さん!働きすぎです!ここは我々がしておきますからっ。早く休んで下さい!!そんなこと続けたら降谷さんが倒れてしまいます!」

心配してくれるのは分かる。だが、今の俺にとってそんな声もうるさくしか聞こえない。

今の俺には仕事しかないのだ。
仕事だけが俺を現実から遠ざけ、無心にさせてくれる。

「風見、悪いが放っておいてくれ。自分の体調管理くらい自分で出来る。」

あの後、少し和解した赤井となんら変わらないくらい酷い隈を目の下に据え、ぶっきらぼうに風見の言うことに答えた。

「失礼ながら降谷さん!その麗しいお顔にあの赤井と同レベの隈を作ってらっしゃるだけで居た堪れない由々しき事なのに、毎日栄養ドリンクばかり飲んでいる降谷さんには全く以ってツヤがありません!今は事務的なミスも犯してませんが、これからどうなるかも分かりません。なので1ヶ月ほど有給を使って休んできて下さい!」

風見の合図で部下達が一斉に俺を外に出し、暫く戻ってこないでください、と言われてしまった。

というわけで。
俺は1ヶ月の有給を部下達に無理矢理取らされ、公安の仕事も、組織も。何も考えなくて良い場所を求めた。まさにそこがが"スペイン"だった。

いつか行ってみたいと過去に風見に漏らしていたらしく、気の利かせた部下がスペイン行きの飛行機チケットを入手してくれていたのだ。

まさかスペインで事件に巻き込まれる……とはいっても自分から首を突っ込んでしまったと言った方が正しいのだが、こんな事になるとは思わなかった。
なんだろ、この女性を、菜々さんを護らなければいけない。って、本能がそう俺に伝えたというか。
ほっては置けなかったのだ。
今、見つけた護るべき人。

彼女との繋がりを色んな言い訳を持ってまで欲しかった自分が言うのもなんだが、自分が組織の人間だったこと、だったり、もしくは公安の人間ということも知られたくない。と、同時に強く感じもした。
彼女に引かれたく無い。
彼女に軽蔑されたく無い。

ただ1人の人間として彼女に触れたい。そう願った。

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