Zero | ナノ

電話の相手は?

自然と目が覚め、ゆっくり目を開けると目の前には男の首が見えた。
不快感は無く、暑苦しくもない。
目の前の褐色の肌によって昨日のコトを全て繊細に思い出した。

「いま、何時?」

本当はその丁度良い体温に離れがたかったが、色々と準備もある。
彼の頬に優しくキスをしてからベッドを降りた。

時間を見るためスマホの画面をつける。

って、げ。

不在着信30件。メッセージ45件。
全て同じ人からだ。
ここまでくると気持ち悪い。

〈仕事は終わったか?〉
〈終わったら連絡しろよ。〉
〈何かあったのか!?〉
〈おい!早く連絡しろ!〉

などなど、私を案ずる言葉ばっかり。ちょっとしつけぇな。
いや、コッチが悪かったのは認める。薬盛られたのは私のミスな訳だし?
連絡に出なかったんだし?
心配かけちゃったし?
でも、考えてくれよ……もしなんかあったとしても余計連絡はできねーだろ。

「ハハハ…」

苦笑いが思わず漏れた。
ストーカーか、っての。

零………いや、降谷に聞かれない様にベッドからかなり離れる。

プルルルルーーーー

わずか2コールで相手が電話を取ってくれた。

「あー、私だけど、」
「菜々!?無事だったのか!……てか遅い、遅すぎる!今まで何してたんだよ!俺めっちゃ心配したんだからな!」
「ごめんって、快斗。ちょっと電話のタイミングなくてさ。」

そう。私の電話の相手はかの有名な月下の奇術師。怪盗キッドこと黒羽快斗だ。

「ま、菜々のそのテキトーそうな受け答えを聞く限り大丈夫そうだけど、なんかあった?」
「あぁ。それね。ねー聞いてよ。媚薬盛られちゃったんだよね。マジムカつく。報復しなくっちゃ。」
「おめーはいつも物騒だな。てか、あれ程気をつけろって言っただろ。ちょ、待て。てことは今も?」
「いや、もう処理したけど。」

快斗の深いため息が聞こえた。
おい。良く聞こえてんぞ。

「おめー、その処理どうした?」

えー。それ、聞く?普通。

「ま、いーじゃん?終わったことだし。」
「は?良くねーだろ。言えって。」

言えるか?こんな事。
デリカシーねぇな。仮にも私、女って分かってるよね?

「まぁまぁ。それよりさ、昨日盗んだ宝石だけど、まだパンドラかどうか確かめてないから今夜調べるね。」
「あぁ分かったから。パンドラは後でいい。話をそらすな。風俗か?」

ギクッーーー

読まれてるわぁ。
何だコイツ。私の行動範囲は把握済みってか?

「……」
「当たったか。」
「いや、違うって。失礼だなぁ〜」
「じゃあ何故黙った?」

いや、行こうとしたっていうか……ね、うん。

「えー、それ言わなくちゃダメー?乙女の純情な心が汚されるってゆーか。」
「ハハ。オメーに乙女の純情な心があるとは思えねぇーけどな。言え。もう既に汚れてんだろ、大丈夫だ。もうこれ以上汚れるこたぁねぇよ。」

思わずそのツッコミに笑った。

「ひっど。ま、行ってないよ。運良くボランティアしてくれる人が身近に居たってゆーか。ハハッ。」
「ボランティアぁ!?おい。そいつとはもう別れたんだろーな?」

快斗の声がちょっとマジになった。

「む。なによー。風俗もボランティアも一緒じゃん。私もう成人してるんですけど。快斗に指図される覚えないし。それに、彼はベッド。もう別れるわよ。だって私に薬盛ったヤツら早く割出さないといけないでしょ。一応盗一さんの死に関わったヤツらかもしれないしね。」

スマホを首と肩に挟んで快斗と会話を続けながら準備を進める。

「だから一緒じゃないって言ってんだろ。風俗は金で割り切ってるけど、ボランティアは気持ちが入るんだって!惚れられたらどーすんだよ。ホントは風俗だって行かせたくないんだからな。」

「ハイハイ。りょーかい。りょーかい。」

「オイオイ…。ちゃんと分かってんのか?頼むからもっと危機感持ってくれよ。」

「知ってるって。だって私、美人だし?」
「ったく。理解してんなら気をつけてくれよな。」

はーいと適当な返しをしたらなんか脱力された。
なによ。私の方が年上なんだけど?生意気なガキめ。

「あと、敵のアテはあんのか?」

気になって降谷の方を見る。
大丈夫。まだベッドで寝てる。

「まぁね。昨日の奴らバカでさ。ちょくちょく情報漏らしてたんだよね。3ヶ月前にしたヤマなんて一個しか無いし、それっしょ。私の媚薬の効果時間から考えると恐らく、アジトは大体30分程度で移動できるトコ。」

媚薬で拷問でもする気だったんでしょ。
私が快楽に負けて手下になるように。って

「なら、俺もジイちゃんとそいつらのこと調べといてやるよ。なんか分かったら教えるわ。それなりの道具も必要だろ?」
「ん。ヨロシク。マジック道具送られても困るからね。」

前に道具として送られてきたのがマジック道具だったことを思い出した。

「へーへー。分かってるって。じゃ、後でな!」
「ん。後で。」

電話を切り、準備を完成させる。

本当は降谷が起きるまで居たいけど、
今度こそお別れね。

最後に降谷の顔を見ようとベッドに近づく。
何故だかは分からない。
だけど、
あどけない寝顔が妙に尾を引き、その場が離れ難いと思った。

だが、私はコイツの何者でもない。
コイツはただのボランティアだ。もう二度と会うこともないだろう。
決心を付けた。
最後だけ、最後だから。ちゃんと名前で。

「バイバイだね……零。」

一言だけ呟いて去った。


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