「な!ちゃんと説明してよ!なんで私が!」
「ヴェスパーくらいしか暇な人がいなかったんです。何か文句がありますか?せいぜい仕事だと思って成りきって下さいよ。」
「はぁ?文句あるわよ。それが人にモノを頼む態度なの?!」
コイツのこの態度、一体何様だ。
敬語でも伝わってくる意味は全然敬われてる気がしないんですけど。
ったく1発ガツンと殴ってやりたい。
「ハァー。………頼むよ、ヴェスパー。君しかいないんだ。」
「溜め息禁止!棒読みじゃない!もっと気持ちを込めてはいもう一回!」
「………お願いします。」
ブライド高すぎニセ王子。
ホントはバーボンが頭(こうべ)を垂れる絵が見たかったけど、ま、ごーかくにしてあげるわよ。
「ふん。通常ならあなたにどんなにお願いされたって不合格ものだけど。ま、借りを返して欲しいなんて言うあなたの狭い心に免じてあげようかしら。」
「……本当にムカつく女だな。」
連れてこられたのは綺麗な日本庭園が見える老舗の料亭。
折角いい服着てきたけど、この店のスタッフさん達に脱がされてしまった。
そんでもって一言で言って、すっげーおしゃれな着物を着せられた。
おー、デッカい船の絵が描かれてる………粋だわぁ。
バーボンは暫く私の着物姿をじっくりと見たかと思えば、鼻であしらってきた。
「ま、似合ってますよ。あなたにしては。」
「むっか。……別にバーボンに言われても嬉しくないし。」
「素直じゃないですねぇ!」
笑顔だけど、怒りを堪えたバーボンのこめかみに青筋が立つ。
「じゃあ、ちゃんと頼みますよ。組織の仕事ではないですけど、ヴェスパーのキャラで頼みます。普段の貴女では少し幼すぎるので。」
「…ちゃっかり嫌味ね。で、なんで私がアンタの"お見合い"の彼女役をしないといけないのよ!」
そうだ。テキトーに奴の服とか選んでやるつもりだったのに。
まさかのバーボンのお見合いをぶち壊して欲しいという頼み。
相手の縁を切らせる悪女役とか最悪。
人をなんだと思ってんのよ。気分さげさげMAXだわ。
「あのー、お客様。料亭前にお相手の方がご到着されたようですので、席について頂けると…」
スタッフの1人が私達を呼びにきた。
私達ってどういう風にみられてんだろ。カップルとか?
………もしかすると、これも痴話喧嘩とか思われてんだろうか?
それはマジでムカつくわ。
バーボンが彼氏とかナイ。
「はい!わざわざどうもありがとうございます。」
「…………。」
隣のバーボンはもうスマイル。
気持ち悪いくらいスマイル。
なんかその代わり様………引くわぁ。
バーボンが前へ進むから、仕方なく私も後に続く。
パシっー
「……はい?あのぉ?」
何故かスタッフさんに腕を掴まれた。
え。何か?
スタッフさんが私の目をじっと見つめ、耳元で何かを囁かれた。
「………(コソッ)大丈夫でございます。お連れ様とケンカをせずとも、失礼ながらあなたの方が見合い相手よりお綺麗でございますから。自信を持ってくださいまし!」
「………は、はい?」
ちょっと読めない。
えっと。……なんか、激励されてる?
「大丈夫!ガツンと言ってやったら良いんです!」
満面の笑みで告げられた。
あー。やっぱ誤解されてるわぁ。
あの男とお似合いと言われてもね、
「…ハイ。ソーデスネ。ガンバリマス。」
作り物感溢れる笑顔で、スタッフさんにお礼を言った。
ーーーーーーーーー
ーーー
「あの、そちらの方は…?」
見た目は少しふくよかなお嬢さん。
ハムスターに似ててなんか可愛らしい。
相手の男に女が付いてきてるんだもん。そりゃ気になるわ。
……はぁ。自分の存在を無にしたい。
「はじめまして。………私、透の婚約者なの。言っている意味、わかるわよね?」
バーボンの腕を優しく抱きしめる。
肩に顔を乗っけ、余裕の笑みでハムスターちゃんにそう告げた。
ごめんね。悪気はないんだよ?
全てはこのニセ王子のせいだから。
「………実は彼女、僕の婚約者でして。僕は彼女を離す気は無いんです。申し訳ないですが、この話は無かったことにして頂けますか?」
バーボンが調子に乗って私の頬にキスをした。
リップ音が部屋に鳴り響く。
へへっと、恥ずかしそうな演技をし始めたバーボン。
おめーより私の方が恥ずかしいんだよ。
………キスされた所を早急に洗い流したい。
頼むから早く終わってくれ。
目の前のハムスターちゃんは泣きそうな顔してるし、隣のコイツは仮面を被った悪魔だし。
マジ勘弁。
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