Rojo | ナノ

Rojo

ーーーチリンッーー

甲高い鈴の音が一瞬耳に届いた気がして顔に冷水がかけられたかのようにパッと一切の眠気もないように目が覚めた。
あの音は確かに玄関のドアにかけられてある小さな鈴の音に間違いない。それは……この家に誰かが侵入したことを静かに私に告げた。

秀一じゃない。

こんな真夜中ーー午前4時ーーに来るほど不躾な人じゃないし、何より私の方がまだ………合鍵を彼に渡していないのだ。

……….ガコンッーー

近い。

私は寝る前に通路の真ん中にプラスチックのゴミ箱を置いている。恐らくそれにぶつけた音だった。
今夜みたいに夜中に誰かが侵入して来た場合、相手と自分がどれくらいの距離にいるのか測れるからだ。

急いで私は近くの引き出しの中に入れていた拳銃を取り出し、パジャマのズボンにそれを挟んだ後、音を立てずにベットの中から這い出た。

無音状態でドアの前に待機し息を殺してその時を待つ。

トクトクトクトク……

ほんの数秒に過ぎないその時間が迫ってくるにつれ、誰もがわからない相手に自分の拍の音が聞こえてないか不安になるくらいうるさい。

私の拍の音と扉の外の相手の地味な足跡がシンクロした瞬間今までの静かさが嘘だったかのように大きな音を立てて扉が開らかれた。

「ハァァー!」

1度蹴りをいれてからよろけた所を狙って回し蹴りをしようとしたが、逆に回し蹴りした脚を掴まれてしまった。

「なっ!」

焦った私はズボンに挟んでいた拳銃を手に持ち素早く今だ顔の見えない相手に向けた。

「早くその手を離して。……じゃなきゃ撃つわよ?」

ビビってささっと手を離して貰えるかと思ったが………簡単にはいかなかった。

逆に掴まれた脚を強く押されその反動でよろけてしまった隙を逃さず私を相手はいとも簡単に壁に押しやった。

「…菜々、俺だ。暴れるんじゃねぇ。面倒だ。」
「…………ジン、!」

なんと不法侵入者はジンだった。

「なんでこんな真夜中に……しかもなんで私の部屋に勝手に入ってくるのよ?!誰かと思ったじゃない!」
「ふっ。何そんなに怯えてやがる。声が少し震えてるぞ。そんなに怖かったか?」
「普通に怖いわよ!どうせ来るなら昼間きなさいよ。」

当たり前だ!と主張するようにジンに告げる。マンション暮らしであるため、特定のこの家を狙って泥棒が入るとは考えづらい。だから………私の命を狙ってる者だと思ったのだ。

「玄関に鈴を吊ったり、通路のど真ん中につまづきやすく音の出るモノか……なかなか用心じゃねぇか。毎日してるのか?」
「そうよ。だって習慣だもの。私だって組織の一員。今までだって人に恨まれるような事は沢山してきたし、用心にし過ぎはないもの。」
「ふん。苦労なこった。」

結局なんでこんの時間にこのような方法でわざわざ部屋まで来たのよ。
私だってさっき新一の家から帰ったばっかで眠いのだ。さっさと用事を済ませて欲しい。

「で?早く用件いってくんない?私、早く二度寝したいんだけど?」

ボソッと、でも聞こえるように呟くとジンが珍しく凍りつくような目で私に近づいてきた。

「ならお望み通り直球に聞いてやるよ。菜々。俺に隠してるこたぁねぇか?」

ジンの余りの驚きの言葉に心臓が剛力で掴まれたように感じた。

……何?CIAって疑ってるんだってそれとなく言いたいわけ??

「…は?別にないけど?」

その私の言葉に納得しなかったのか、それともただ言い方がムカついたのか分からないが、ジンの大きな2本の指は私の顎を強く掴んだ。
無理矢理ジンの方に向けさせられる。

「おい菜々。いくらお前でも嘘を吐いたら手加減はしねぇぜ?………俺の目を見て言え。」
「無いっていってるでしょ。耳、あるくせに聞こえないの?……ていうか。この無駄に力の入ってる長い指を離してくれる?……痛いんだけど?」

獲物を見据えるようにジンの目を強く睨みつけ、ねっとりと挑発するように反論した。
これが私の組織でのスタイルだから。
ジンは暫く私の顔を何かを見極めるかのように見つめ、私はその裁きの時を待った。

ほんの数秒。されど、私にとっては生死を分けるかもしれない数秒。

睨みつけてるようにジンの目を見続けていた私だったが、ようやくジンが私の顎から指を離した。どうやら私を信じてくれたらしい。

「シェリーが消えた。あいつにお前以外の友達がいるとは思わねぇからな。」
「……!シェリーが?なんで……なんで消えたのよ。私が抜けていた間に一体何があったわけ?」

ジンの突然の告白に私はゆっくりと立ち上がり、ジンの服を強く握りしめ問い詰めた。
……でも、ジンはやっぱり冷たくて。

「俺がシェリーの唯一の姉、宮野明美を殺したからだろうな。」

その言葉に呆れて何も言えなかった。
ハァーと溜息をつき、野暮ったい足取りでベッドに向い、座った。

「………だから私の家に来たのね。私が家でシェリーを匿ってるって思って。でも残念。予想は外れたわね。」
「ふん。シェリーはお前を選ばなかったようだな。正しい選択だ。夜分に悪かったな。……早く寝ろよ。」

そういって部屋を出て行った。
ジンが出て行った先を見つめ、影を睨み続ける。

正しい。って何がよ?
私に頼ったら今捕まってたから?役立たずだって?
それとも、私が自身の身を守れたから?
暗闇にいたってこの炎は消せなかった。

下唇を薄く噛んでもこの歯の震えは止まらず、上を向いても涙が零れそうになった。
そして、ベッドを思いっきり拳で叩いても悔しさは止まらなかった。

人を護る職業につけたというのに情けない。

シェリー、いや、志保。
私が必ず貴女を見つけ出してあげる。
絶対守ってあげる。そう自分に誓ったこの時、

ふと、…………脳裏にAPTX4869がよぎった。
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