Rojo | ナノ

Rojo

暗い。
星なんか見えない。ただ、ひとりぼっちのお月様だけ。

でもその暗い闇が私を隠してくれている。
時計を見てないから確信は無いがお恐らく夜中の2時頃だろうか?
あたりは暗く本当に静かで、世界中で目を覚ましているのは私だけのように感じる。
何にも制限されない自由さを感じる一方それでも、やっぱりなんとなく怖さを感じるのは、心のどこかで幽霊とかを信じてるかもしれない。

両手を自由にするべく、ペンライトを口に咥え着実にある作業を黙々と続ける。

カチャカチャ……

ドアの鍵穴をできるだけ傷つけないように細心の注意を払い、自分の耳と手先の微妙なコントロールが鍵を握っている………そう。いわゆるピッキングだ。
それも、………長年お世話になった工藤家をだ。

なんで鍵を使わないかって?
暫く住んでいただろうって?

それは……残念ながら溶かしましたよ。それもドロッドロッに。もうこの世には在りませんね。

有希ちゃんや、優作さんには勿論返そうとしたんだけど、それはあの家を出たばっかの時だったから、いつでも帰ってきていいんだよ。という意味を込めて受け取っては貰えなかった。

だけど、組織に身を置く様になってからはこれは流石に危険だ。と思って返した方がいいと思ったけど、逆に工藤家の人と会う方が危険だと判断した私は知り合いに頼み、溶かすことを決めたのだ。私の家に置いといて組織の人に見られる訳にはいかなかったし、

カチッーーーーー!

「……よかった…なんとか空いたわ。」

心地よい解除音と共に無事(?)鍵を開けることに成功した私は口に咥えていた小さなペンライトを手に持ち替え自分の足元を照らす。

大きな懐中電灯だと、私の存在を知られる危険性を考え、出来るだけ小さいペンライトを持ってきていた。
それゆえに、明かりの灯せる範囲はごくごく限られているが、無いより全然マシだ。

靴を脱ぐ、脱ぎ履きしやすいローファーを選んできて正解。
小さなペンライトを頼りに、細く黄色い光の筋を闇の中、目で追っていく。
障害物を避け、以前シェリー達と見た場所、そして、住んでいた者でしか知らない場所を回る。

「…特に変わった物はないんだよね。」

遂に最後の場所に辿り着いてしまった。今のところ収穫はない。
お願いだ。

……………新一が生きてる証拠をくれ。

焦燥か恐怖か得体の知れない不吉な塊が胸の奥底に植えつけられ、まるでそれは絶望の風船のようにドンドン膨らんでいくようだった。

一般的に見て、きっと何も変わったことはないだろう。それでもなお、心の中の何処かで消化しきれない少しの期待が心を包む。

ここは……いわゆる物置。新一の成長の記録を保存してる部屋。
部屋の中の箱を片っ端から調べるが……それでも

「………やっぱり…そうだよね、」

そうだ。
期待した私が悪かったのだ。
半ば諦めた気持ちで最後の箱に手をかけた。

何も変わったところはない。そう思うと思ったら…………頭を殴られたようなショックが全身を貫いた。

「…あ、……ぁぁ」

バレないように静かにしなければならないのに、急に脚に力が入らなくなり、大きく音を立てて私は崩れ落ちた。

そう。…………そこには、以前来た時には大量に保管されていた子供服が殆ど残されていなかったのだ。

「………なんで、………まさか…!」

突然、1つの仮説が私の頭の中に稲妻のように走った。

APTX4869を研究しているときに実験用のマウスが一匹だけ幼児化したのを思い出したのだ。
物語の世界でもないのに起こった事実。
でも、運良く彼がその確立に恵まれたとしたら…………。

箱の中から1枚小さな服を取り出して強く握りしめる。
既に幾つか落としてしまったシミで手に持つそれが濡れてしまったが、そんなこともお構い無しにその小さな子供服をキツく抱きしめた。

「………ぁ、ぁああ。………新一っ、……よかった。」

咽喉が熱くなり、キツく締められているように感じる。
嬉しくて、嬉しくて……涙が止まらない。
確かに服がなくなっているだけで彼が生きているとは限らないけど、暫くこの感情に浸っていたかった。

ほんの数分、だけど私にはただその数分だけでよかった。
止まる事をを知らない涙もいつしか止まり、私の心は幾分か晴れ渡っていたからだ。
自分の理性も徐々に回復したので、バレない内に静かに私の来た痕跡を全て消し、工藤家を後にした。

服のポケットに両手を突っ込み、頭を伏せて早歩きでその場を去る。
きっと他人から見たら、満面の笑みで歩いていてなかなか痛い人に違いないだろう。

だが、あのジンの手にかかってまだ生きてるかもしれないと思うと、喜ばずには居られない。さすが工藤新一!やっぱり新一って幸運の持ち主よね……って、

「あ、あれ?……なら、」

"なら新一は今どこにいるの?"
ふと、当たり前の疑問に引っかかる。

「……博士んち、……ではないよね、」

組織の手にかかり、危ないと知っていながら、呑気に仲の良い隣のうちに彼が居座っていりとは考えずらい。

「…それでも、小さな子がホテルの部屋を取れるわけないし……新一の性格を考えて両親に頼むって事はしなさそう……」

となると・・・・・残るは、他の人間よりも信頼関係の強い幼馴染の毛利蘭、の家ってなりそうだけど。
それなら、彼は自分の正体を伝えた上で蘭と同じ家で暮らしている。っていうこと?

だが、そんな仮説考えるだけでやり場のない苛立ちと、抑えどころのない焦燥感がカッカとマグマのように全身を駆け巡るようだった。

何故か?考えなくても分かる。これは………嫉妬だ。
心の底では、蘭に対するつまらない嫉妬がうごめいていた。

小さい頃から一緒に居たのは私だ。
新一を1番理解してるのは私であって
蘭ではない。と。なのに、……自分のポジションが、蘭に奪われる気がしたのだ。

だが、ただ言えるのは……これは恋愛のものとは違うということだ。なぜならば、間違いなく私が愛している人はこの世で"赤井秀一"ただ1人なのだから。

ただこれは家族愛とは違う…、なんとも表現しがたいただの彼に対する執着心に近いようなものなのかもしれない。それでも嫉妬のような感情がグイグイと心に食い込むのを認めれる。

「………蘭ちゃん家行ったら会えるのかな、」

純粋に口から出た言葉。
勿論、会うなんて事は出来ない。まだそんな時期じゃないから。
それでも、……行ってみたくなった。ただ彼の存在を物理的な距離で感じたくなっただけ。
ましてや夜中だ。大丈夫、姿だって見られない。

そんな事を思いながら歩いていると、自然と着いてしまったこの場所。

毛利探偵事務所。

たはは。苦笑いが出た。
願望に忠実だな私。

当然といえば当然だけど、真っ暗なで昼に比べて存在感がまったく無い。
それでも私にとっては、はっきりと新一の新たな根城に見えた。

その暗い部屋に狙いを定める。

「……待ってるわよ。平成のホームズさん。」

必ず対峙する。
そういう運命だから。早く会おうね。

私の愛しい愛しい宿敵(こいびと)さん。

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