「け、契約って何いって、…」
「作っとかないと菜々の事だ。どうせまた、"騙したのね!"とか、"私を利用したの?!"とか言い出すんだろ?この際キッチリしとかないとな。」
「うっ……」
なんだろ、前科があるとなんも言えないんだけど。
「内容は2つある。まず1つは、菜々は俺に組織の情報を提供する必要は一切ない、だ。」
赤井さんは組織を追ってるFBI、なのに。
「……いいの?それで…」
本当はいいわけない。
知ってるけど、逆にそれを思う方が無粋の様に感じた。だからつい甘えた事を聞いてしまう。
「ああ。問題ない。別に俺は組織の情報の為に菜々と付き合うワケじゃない。……何度でも言うぞ?俺は君が好きだから一緒にいるんだ。」
ハッキリと誤解を招かない口調、そして真剣な眼差しで私に訴えてきた。
「……次、2つ目は?」
「2日目は、俺に遠慮をするな。だ。俺は菜々と普通の恋人同士になりたい。組織も捜査官も関係ない領域に行くんだ。」
「…普通の……」
大抵の人ならいる領域。
でも、私達の領域は違う。
それを、排除するんだ、
「特に菜々の場合はギリギリまで溜め込んで一気に1度に爆発するタイプだと今回の事で良く分かったからな。何かあれば聞いてくれ。答えれる範囲で答えてやる。相談にものるしな。」
自分の中で何かがこみ上げてくる。
それを出したくなくて必死に耐える。
喉が詰まったような、熱くて息苦しい感じ。
「分かったのか?菜々?」
ずるい。
「分かったけど……それ契約って言うより赤井さん、私のことを甘やかしているだけじゃない。」
「ハハッ。そう思うならそれでいいじゃないか。…でもな契約だから菜々にもしてもらいたいことが1つある。」
うん。契約、だもんね。
「うん。難しくないのでよろしく。」
敬礼の真似事をする。
赤井さんの目をじっと見て、返答を待つ。すると赤井さんが少し口角をあげ、口を開いた。
「"赤井さん"はやめてくれ。これからは"秀一"と呼べ」
「へっ……?」
名前呼び?!
それが、私の契約対価?!
それではいくらなんでも簡単すぎでしょう!
「もう俺の本当の名前を知ったんだ。恋人には苗字ではなく名前で呼んでもらいたいんでね。」
勿論できるな?と、その十分過ぎるくらいに整ったお顔が私のさほど顔面偏差値の高くない顔に接近してきた。
自分より確実にイケてる男性にこんなに攻められて恥ずかしくないわけないだろう!
「ちょっ……!赤井さん近いから!」
すると突然赤井さんが座ったままの私の腰に腕を回し、強く引きつけられた。うおお。密着!私の胸が赤井さんの体に密着してるよ!
「"赤井さん"、じゃなくて"秀一"な?」
その体制にテンパって油断していた私は、その甘い声、吐息が耳に触れる事を許してしまった。うわぁあ!やめろっ……耳が、犯される!
「まって、やめっ…。今はムリッ!こんな姿勢なの!恥ずかし過ぎて呼べない!」
「今言え。……なぁ?こんな簡単な契約はないだろう菜々?言っておくが、勿論今だけじゃないからな?今後の呼び方だ。」
私の反応を完全に楽しんでいる。
このっ……ドSッ!
名前を呼ぶことくらい簡単じゃないか…なんて思ったことに後悔が押し寄せる。
「離れてくれたら言うから!」
「俺も早く言ってもらわないと困るんだが…。愛する恋人がブラとショーツの全裸に近い形ですぐ目の前にいるからな………もたなくなる。」
「なっ…!」
「呼べ。」
そんな熱い目でこっちを見つめないでよ。……断れないじゃない。
「しゅ、………秀一、さん。」
「"さん"は要らない。」
いや、分かってるよ!ホントはさんなんてつけるつもりなかったって!
だけど、つけないと私の羞恥心が破壊されるんだって!
顔見ればすぐにわかる。この人めっちゃ楽しんでるよ。
鏡で顔見なくてもわかる。真っ赤だ。トマトの如く真っ赤に違いない。
「…………秀一。」
俯きながら呟いたその言葉。
恥ずかし過ぎて目を見れない。
だが、その恥ずかしさに悶える隙も貰えなかった。赤井さん、いや、秀一が私の顎をクイッと上げ、私の唇に秀一のそれが襲ってきたから。
「……っん!…っ、っふ……ぁっ」
初めからお互いの舌を絡め合うキスを飽きたらず何度も何度も繰り返す。
外国映画の熱いキスシーンのように、今は私たちが主人公。
さらには秀一の逞しい手が首筋から背中を通り、お尻までさらっと撫でられる。その瞬間ぞくっとと背筋に快感が走る。
「んっ、んんっ……ふぁっ、ぁ、ん」
なんか変な気分になってきた。下半身が熱く………そしてズクズクと疼き始める。子宮が勝手に収縮運動をしているのを身体も感じる。意識をすればするほど急に女としての快楽を味わいたくなってしまう。
「……秀一、あの、あんまり激しいキスはしないで、………じゃなきゃもう部屋を出なくちゃならないのに、……エロくなる」
残りの理性を保つ。
時間までに出ないと追加料金がかかっちゃう、
「何も考えるな。だから、俺に偽りのないお前の全てを見してくれ。エロいお前もそそる。」
そのこっぱ恥ずかしいセリフを堂々と私に伝えてきた秀一は私の胸元に真っ赤なキスマークを付けてきた。
もうっ。知らないよ?
私は全体重を前方に掛け、秀一を押し倒す。一瞬驚いたような顔をしたが、直ぐに不敵な笑みを浮かべた彼。
こんなに身体の中心から熱いモノを呼び覚まされて……女の本性を知らないわけじゃないでしょう?
「……すっごいワガママだって後から気付くことになるわね。」
「本望だな。」
「……余裕ぶっちゃって」
秀一の唇に私のそれを押し付ける、
それも。本能に濡れた顔を浮かべながら。
そして、口ずけを落とす際に彼の頬に添えていた右手をゆっくり焦らすように秀一の身体に這わせながら、もともとお目当てだったベルトに手を掛けたのだった。
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