Rojo | ナノ

Rojo

「赤井は……」

ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー

私はあるマンションにきた。
セキュリティ万全。
綺麗で清潔感のある高級マンション。
私は彼の部屋まで行ってチャイムを鳴らす。

「…はい?」
「私よ。」

冷静になり切れてない私はいつもより低い声だったことも気にしない。
でも、人一倍周りの状況や適応力の強い彼だ。きっと気付いてる。

「今開ける。ちょっと待ってろ。」

ガチャーーー

私の顔を見た瞬間、ライの顔が強張った。

「……!菜々!お前、頬に傷が…!それに二の腕まで!…一体誰にやられた?組織の任務か?!」
「……ねぇ、ライ……」
「ああ、血が固まって汚れてるな。お前処置というもんを知らないのか。話は後だ。まず上がれ。」

タッタ…と1人で部屋に戻っていった彼。でも私は怪我よりも言いたい事がある。
だから、バーボンの処置の申し出を強く断り、話を聞いてきた。

私は玄関ドアを閉め、ヒールを履いたまま、部屋の入り口に立つ。
そして、棚から処置箱を取り出している最中の後ろ姿に声をかけた。

「ねぇ。貴方、ホントは赤井秀一って言うんでしょ?」

言い出したのは私だけど、一瞬にして時が止まったかのように錯覚した。

「……2、3年前にロスの射撃訓練場で初めて出会ったあの、赤井さん。でも、今はFBIの赤井秀一さん……ねぇ?組織の人間である私を逮捕したい?」
「お前、………何処でそれを?」

ライ…いや、赤井さんの声が少し震えてる。でも、普通の人なら分んないだろう。それくらい小さな反応。でも、……それでも分かる私がまだ彼にハマっている証拠なんだろう。

「ふっ。気づいてなかったもんね。今日の東都ホテルに居たのよ。私。それで貴方の姿を見た。初めは私達の援護に来てくれたのかなって思ってた。でも、違ったんだよね。その後は貴方の事も全部バーボンから聞いた。」

怒りを感じさせない淡々とした声で私は主張した。
でも、それが、自分じゃないみたいで自分でも怖いと思った。

「菜々…!俺は、」
「ねぇ、どうだった?使えた?上手く騙されてくれる私は?……良かったね。組織に知っている女がいて。利用できて。」

ははっ。……私馬鹿みたい。マジウケる。
ホント馬鹿すぎて……ウケる。あーぁ……涙が出ちゃいそう…。でも、こんな事で泣いたら…もっと私が弱い人間みたいでヤダ。涙は女の武器だ。っていうような女みたいでヤダ。

ちょっと泣きそうな私に気付いたのか気付いていないのか分からないけど、赤井さんはこちらに近寄ってきて私に手を伸ばしてきた。

「菜々……頼む聞いてくれ、」

でも、

バシッ……

伸ばしてきた赤井さんの手を払いのける。

「…聞いてって何?言い訳でもするつもり?どうせ好きでもないタダの組織の馬鹿女の為に?触んないでよ。」

本当の本当は私だって貴方の仲間だって…、CIAの人間なんだって、伝えたい。
でも、それは許されない。
ただの承認欲求、そして、ワガママ。
何処で誰が聞いてるかわかったもんじゃないし、
第一、赤井さんが欲しかったのは、私じゃなくて、組織。私は元々使い捨ての駒でしかなかったのた。

怖くなった。
赤井さんが、じゃなくて、私が。
ここまでされていて、なお、"好き"と心の底から思ってしまう私が。

だから私は逃げ出した。

「待て菜々…!くそ!」

1コンマ早かった私は走りだし、エレベーターに乗る。
ここが高級マンションで良かった。
でなきゃ、待ってる間に、ここで赤井さんに捕まってた。

とりあえずマンション周囲から逃げ出した。走って、走って裏通りに入る。


「…はぁ、はぁ、……ははっ。どこのラブコメだよ。私は完全悪役じゃない。」

壁にもたれかかってそのまましゃがんだ。あーあ。ドレスのまま走っちゃた。これじゃあ草臥れちゃうよ。これけっこう気に入ってたのに。

「ほんと青春かって……」

こんな青春久しぶり。
新一と以来だ。だから経験が少な過ぎてどうしたらいいかよく分からない。

苦笑しながら自虐をしていると、暫くして電話が掛かってきたことに気付いた。携帯のバイブ音が止まらない。
はぁ。今出たい気分じゃないのに。
誰かと思い、表示をみると、安室さん。つまり…バーボンだ。

「…もしもし。」
「やっと出てくれましたか。……普通先輩の電話には3コール以内で取るもんですよ?」
「はぁ。なんかバーボンと話してると自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた、」
「あなたって人間は本当に失礼ですね。折角後輩に、いい事を教えてあげようと思ったのに。残念です。」

……ん?

「……いい事って何?」
「あ、やっぱ知りたいですか?」

電話の向こうでちょっと笑い声が聞こえてくる。からかってんな。こいつ。

「うん。知りたい。知りたいから早く。」
「ふふっ。いいですよ。教えて差し上げても。あー、実はですね?……さっき菜々さんに赤井の事を教えてあげたんですけど、どうも言い忘れていたことを思い出しまして。」

「赤井、さんについて……。」
「ええ。そうです。存在だけでもうざったらしいあの赤井についてです。」
「FBI、なんでしょ?彼は。」
「はい。その通りです。でも、それだけじゃないですよ情報は。……奴はですね、」
「……。」
「人の何十倍も警戒心が強く、何十手先も読み取り、頭もつい恐ろしくなるくらい良い憎たらしい男なんですよ。ねぇ、菜々さん。菜々さんは赤井の家に行くって言ってましたよね?なら、奴が好きでもない女性の為にそこまでのリスクを負うと思いますか?」

「………何かを手に入れるにはそれ相応のリスクを負わなきゃ得られないでしょう?とても有名よ。」

自分でも、自分で言ったことが正論だと思う。
それにそんな事聞いたらまだ、自分にも脈があるんじゃないかって思いたくなるじゃない。

「ふっ。確かに…。でも、型にハマりすぎるのは良くないですね。特に奴は型破りが得意ですから。」

何と無く彼の言いたい事が分かってきた。
つまり彼は、何故か私の恋を応援してくれている、って事に。

「ねぇバーボン。その情報、結構必要じゃん。もしかして、貴方、ワザと私に伝えなかったんじゃない?」

一つの憶測が頭をよぎる。

「分かりますか?まぁ、人の不幸は蜜の味っていいますしね。確かに知っておいて今教えてあげたのは計算ですけど、でも教えてあげたのを感謝して下さい。」
「ねぇ?バーボン。」
「なんですか?」
「なんで私を殺さないの?」

"疑わしき者は罰せよ"
彼が知らないはずがない。

「………さぁ?ただの気まぐれです。まぁ、恩を売ってると思って下さい。」
「…そう。結構いい奴ね。貴方。」
「心外ですね。僕はいつもいい奴です。最後に餞別でもあげます。赤井はあの顔で寂しがりやの上、変態です。せいぜい気を付けて下さい。」

最後と言われ通り言葉を言い切ったバーボンは直ぐに電話を切った。

バーボンは、遠回しに赤井さんと話せって言ってくれた。

けど、

さて、どうするかね………?

私は重たい腰をゆっくり上げ、
お尻についた汚れをはたいて落とした。そして再び、重たい脚である場所へと歩き出した。
PREV / NEXT

- 55 -
TOP MAIN
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -