Rojo | ナノ

Rojo

午前9:00

昨日、俺はこの杯戸町4丁目のあるマンションへと引っ越してきた。
そう。予定通り"ヴェスパー"のお隣に部屋を借りたのだ。

ベルモットがあんな条件を出すから、コッチも面倒な羽目になったんだ。
なんでわざわざ組織の女の隣に部屋を借りなくちゃならねぇんだよ。
ストレス溜まるだけじゃないか!

昨日の内にヴェスパーの家にも挨拶に向かったのに、彼女は出掛けていて居ないし!

引っ越してきてバタバタしていたこともあり、冷蔵庫の中にはペットボトルの水くらいしか置いていないのを思い出した俺は近くのスーパーへ食材を買い出しに行った帰りだった。

ーーーブー…ブー…。

ズボンのポケットからバイブ音がし、電話が鳴っていることに気付く。
発信元が誰であるかを確認した俺は思わず深いため息をつかずにはいられない
なぜならその相手は…………

「…はい。何か用ですか?……ベルモット。」
「あら?なによ?機嫌悪そうね。ちゃんと貴方が予定通り動いてくれてるかの確認のためよ。で?もう菜々とは会ったのかしら?」

ああ。機嫌も悪くなるさ。
お前の声を聞くだけでな。

「いえ、ヴェスパーの部屋の隣に越して来ることは出来たんですが、残念ながら彼女は昨日部屋に戻らなかったようで会えなかったんですよ。」
「……そう。なら菜々に会った時は分かってるわね?」

「分かってます。ちゃんとベルモットに言われた通りにしますよ。……彼女に冷たく接し続ければいいんでしょう。」
「ええ。…その通りよ。必ず言いつけは守りなさい。いくら菜々が可愛いくて、一目惚れしちゃったとしても私が許すまでは優しくしちゃダメ。菜々の感情に〈最低男〉の烙印を押し付けて。」

そう言ったベルモットは電話を一方的に切ってしまった。
はぁ。協力するんだから少しは計画というものを教えてもらいたい。
彼女の秘密主義にはもううんざりだ。

俺は越してきたマンションのエレベーターに乗り、部屋の近くまで来た時、ある人影を見つけた。

……!どうやらお姫様のお帰りのようだ。
一瞬だったから長髪の赤毛しか見えなかったが、僕の隣の部屋に女性が入っていった。恐らくあの女性が"ヴェスパー"に違いない。
そういえば、俺が初めて"ヴェスパー"の名前を知ったのは、……まさかのスコッチからだった。

ーーーーーーーー
ーーーー

「……ヴェスパー?」

俺はスコッチと一緒にあるお気に入りのバーに来ていた。

"ヴェスパー"といえばジンをベースとするカクテル。そして何より映画の「007」で一躍有名になり「ボンド・マティーニ」としても良く知られているカクテルだ。

「おう!そうだ!どうやら新しい組織の仲間になった娘なんだと。実は今日彼女の初日だったらしくてな?なんと俺が建物やら案内する係になったんだよ!」
「…女性か。」

スコッチの顔がいつもより優しそうな顔をしている。
俺はすぐに何かあったと悟った。

「ああ!にしてもイイ女だったよ。目が離せないって言うか、世の中にはまだこんな美しい人間がいるのか。って思うくらい。思わず恋に落ちるトコロだった。」

そう語る彼だが、何処か遠くを見る彼に本当は恋に落ちてしまったんだと俺は確信した。

「…へぇ。慎重派のお前が。珍しいな。そんなに美しかったのか?」

スコッチのそんな浮いた話は珍しく俺は強く興味を抱いた。

「ハッ。…あれは美しいってもんじゃない。少し幼い所もあるんだが……すべてに惹かれちまうんだ。はぁ。くっそ一発ヤりてぇな。どんな声で鳴くのか検証してやりたい」

初めはそれこそ真面目に語る彼だったが、ハッと我に返ったようにジョークを言った。

「おい、そこらへんにしとけ。お酒が回り過ぎているようだ…。それに、そんなにもスコッチが褒める女なら俺も会って見たいよ」
「彼女も流石にお前なら"一目惚れ"するかもな!」

悪いがスコッチがその女に惚れようとも俺は、

「利用するのみだ。俺は惚れない。自信がある。」
「くぅ〜!言うねぇ。流石エース。」
「組織の女なんて信用も何も出来ないからな。……ハッ。そんなに良かったか。」

スコッチは目の前の酒をジッと見つめ、真剣な顔をしていた。

「勿論。組織の女じゃなかったら確実に狙ってきたよ。それに思うんだ。なんであの子はコッチ側に来ちまったんだ?って。本来の俺達なら………助けてやらねぇといけねーのになって。」
ーーー
ーーーーーーー

昔、スコッチと話した記憶がふっと蘇ってきた。
思えばあれが、スコッチとの"最後の晩餐"だった。

あの時と気持ちは変わらない。まぁ。俺は俺で彼女を利用できるだけさせてもらえばいい。
ヴェスパーに恋に落ちない自信はあるんだから。

ーーーピンポーン
こちらの警戒とは裏腹に軽やかな呼び鈴の音が耳に染み付いた。

「…はーい!今出ますー!」

少し高めの女性らしい声。
無性に男の子としての好奇心に胸が燻られた。

くっそ。何緊張してんだ。俺…!
中学生でもあるまいし。

ガチャ……
時は待ってくれず、真っ黒いドアが音を立てて開かれた。
だが、俺にはそれが、スローモーションのように思えた。
……そう。まるで何かの運命を暗示するかのように。

ーーーッ!
予想していた予想図にくっきりと亀裂が入る。
なんて…なんて俺は浅はかだった。

バカみたいに彼女から目が離せない。彼女を目にした瞬間から息も、時間もそして足さえも止まってしまった。

ゆるくふわふわな赤毛が彼女の白いマシュマロの肌を包み込み込むように存在し、桃色のぷくっとした唇がまるでこちらを誘うように主張しているようだった。

そう……彼女は想像以上に俺を惹きつけた。

「ーーっ!!」


やられた。

純粋にそう思った。
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