FBIが日本に作っている拠点で今日も暇を弄ぶ。あれから一度も菜々から連絡は来てない。最近の習慣の携帯を眺めるという行為も気づけば一週間も経っていた。
嫌われてしまったか?
初め怯えてたし、菜々からすれば俺はおじさんだろう。
いや、だが待てよ?彼女を抱いている時は喜んでた筈。「もっと…!」とか、「ライのが欲しい…」と言っていたしそんなに状況は悪くない筈なんだが。
あの夜の事を思い出すと顔が、特に口元が無意識に緩むのを自分でも理解している。ポーカーフェイスでなんとかバレないようにはするが顔馴染みの奴らにはバレてんだろうな。と思ったりもする。
……特にジョディとか、ジェイムズとかな。
菜々に関して調査をしようにも流石組織の女って事もあってかFBIの情報網だけでは限界というものがあった。まぁ、少なくとも〈杯戸町4丁目の高級住宅街にあるマンション〉というざっくりした事くらいは特定することができたが、それ以外は異常な位に情報が極端に少ない。
ついルートを調べる為に印刷した地図をボンヤリと眺める。
菜々は今何をしてるんだろうか?
答えの無いただ疑問がポンっといつもの様に浮かびあがる。
「へぇ、それが貴方の愛しの子猫ちゃんの居場所かしら?」
ハッと後ろを振り返ると同僚のジョディが口元に手を当ててニヤニヤしながら立っているではないか。
「……ジョディ。そこで何をしてる?仕事はどうした。あぁ、そうか。暇人なのか?」
「んな!失礼ね!ずっとシュウがその地図に夢中だったから声でも掛けてあげたのよ。それに、お昼まだみたいだったし、どうするのかな?って。」
少し頬を紅色に染め、様子を伺ってきた。
「昼?もうそんな時間か。ならコーヒーでも買ってくるさ。」
時計を見るとそろそろ1時だった。
確かに何か物足りない気がする。
コーヒーを求めにスクっと立ち上がった。
「シュウ、ちょっとまって!」
「あ?なんだ。」
「どうせコーヒーだけなら、私が行ってみたいと思ってたお店にでも一緒に行ってみない?」
ね?お願い!とウインクをしながら茶目っ気な顔で返してきた。
*****
暑い!!
夏だから当たり前?知ってるって?でも言わせてっ!
外に出れば肌は焼けるし、蒸し蒸しとした暑さのせいで何をするのも気怠くめんどくさい…!
「…だるぃ、てか、お腹空いたぁぁ」
実は昨日の夜は何かを作るという気力さえなく、冷蔵庫にあった"プッチンプリン"と"コーラ"しかお腹に入れてない。
糖分ばっかだし。けんこーに悪いっす。
時計をチラッと覗くと1時20分。
さすがに胃袋が何かを求め始めた。
ソファーから転がり落ちるようにして立ち上がり、財布を持って最近の行きつけの隠れカフェの店に行くことを決めた。
服装はベルモットに買ってもらった下ろしたての胸元の空いた赤のワンピ。
外へ出るとアブラゼミがやかましく鳴いており、蒸し暑い夏の午後だが着替えたことによってガラリと気分が変わった。涼しさを含んだ夏の風が吹き、自慢の赤毛をフワリと巻き上げる。
普通に歩いていると直ぐには気付けないであろう、あるお洒落な日本風の隠れ家カフェ
《倭》
私も初めは「…わ?」としか読めず、読み方が分からなかったが、後から"やまと"と読むことを知ってからいつの間にか私はこの店の常連客となっていた。
「あっ!菜々さん!いつもの席ありますよっ。」
出迎えてくれたのは
ココでバイトをしている子犬系男子の杳(よう)くんだ。
ニコニコとしながら席へ案内してくれる。
うん。今日も可愛い。
ふわふわな長めの茶髪とくりくりで大きな瞳。微笑むだけで周りを和ませてくれる天使の微笑み。
少し童顔な顔をしているが、実際は18歳で私より1つ年上のれっきとした男だ。
少しでもいいからその可愛さを分けて貰いたい。
「今日もカフェラテとデザートですか?」
「ぁあ〜。今日はランチセットにするね。お腹空いてて。」
「はいっ。直ぐ出来るので待ってて下さいね」
待ち時間は杳くんとお喋りしたり、本を持参したりしてるけど、今日は杳くんとお喋りすることにした。
「あ、あの…菜々さん。いきなりで失礼だとは思うんですけど、」
「ん?何?」
すると、モジモジと言いずらそうに顔を紅色に染めながら杳くんは話を思い切ったように切り出した。
「菜々さんは今、恋人はいるんですか!?」
「ッごほっ!」
つい飲んでいたオレンジジュースを思わず噴き出しそうになった。
危ない、危ない。
軽く切り出せばいいのに、そんな女子中学生みたいに照れながら言われるとコッチも釣られて照れるじゃないか。
任務やらで今まである程度色んな男と接触してきたが、こんなにも"自分"として対応するのは久しぶりで動揺してしまった。
「いや、いないけど。」
「ホントですか!?良かったぁ〜。……だったら、」
すると突然、杳くんの言葉を遮るようにして鈴の音が鳴った。
「あ、ちょっとすいません、」
悪いけど、杳くんの言いたいことは大体予想がつく。
だけど、私はそれに応えられないよ。
だから、きっとこのベルの音は皮肉にもナイスタイミングだったのだ。
私もどんな客が来たのか気になって扉の方を覗いて見た。
この隠れカフェを見つけた人はどんな人なのだろうかと。
すると、そこに映ったのはダンディなおじ様でもなく、学生でもなく、
美人な外国人女とライだった。
PREV / NEXT
- 46 -