私はある交差点で信号を待っている間、ある若者の会話を耳にしていた。
必要じゃなければ、普段ならあまり人の会話に聞き耳を立てないんだけど、この時は好奇心の方が勝ってしまったのだ。
『さっきめっちゃ可愛い子いたよな!ちょっと外国人顏の。やっぱ声かけりゃ良かったよな!』
『ぶはっ。お前が?無理じゃね?あれはレベル高けぇって。』
私にとって可愛い子って、言ったらやっぱり菜々しかいない。まぁ、彼らが言っている女の子はあの子ではないんだろうけど、
『でもさ赤毛っぽいふわふわな髪がたまんねかったなぁ!胸もこぉ、デカくってさぁ』
『あっ!それ俺も思った!しかも谷間が見えたよな。身体に張り付いたような黒のドレスなんか着ちゃってさ。誘ってるしか思えねぇよな!くゥ〜たまんねぇぜッ!』
ん?…赤毛のふわふわな髪の毛。胸元のあいたピチピチの黒の…ドレス。胸が大きい?!
まさか菜々じゃないでしょうね。
たったこんだけの情報だけで判断するなんて可笑しいけれど、条件が一致し過ぎて。それに女の勘…というか本能がそう告げるのだ。あの子だと。
気になってしまうと居ても立っても居られなくなり恐らく彼らが来たであろう道へ急いだ。
ほんの数メートル行った先に赤毛っぽい髪の色をしたロングヘアの子がいた。
嘘でしょ。間違いなくあの子。菜々だわ、
途中で菜々と会った…というか見つけた。
顔を見なくても歩き方で分かる。
やっぱり人それぞれ歩き方って違うし、何より私が間違える筈がない。周りの行き通りの人々が菜々を振り返る姿が見える。
「菜々っ!」
一度呼んでみたが、反応がない。
もう一度してみたが反応は同じ。
仕方なしに肩に手を置いて名前を呼ぶ。
「菜々!」
「っふぁい!」
ようやく気付いたようだけど、このバカ。こんな格好で一人で出歩いちゃって危ないじゃない。
…あら?この香り、どこかで?
彼女から彼女のものではない、独特の何かの香りを感じた。
……あー。これ、ショートホープ。……赤井秀一が愛用している煙草の香りだけど。
これだけで彼と決めつけるのは変な話だけど、無い可能性ではない。
てことは。さっきまで彼と一緒にいたってことになるけど。
赤井秀一…一体何を企んでるのかしらね。
それに、あれは香り自体がしっかりとしているから菜々の身体に移ったのね。
ま。菜々は全く気付いてないみたいだけど。
話を聞くところによるとこの子はまた赤井秀一に会う可能性が高いことが分かった。
だって、興味の無い男なら会わないって言えるし、何より菜々の顔つきが違う。
どこか女らしい仕草をするのだ。
それにこの子が赤井秀一の唇にキスをしたなんて、"気に入ってる"って言ってるのと一緒。
だって私がそう教えたんだもの。
今後の為に菜々にはシた後の注意を教えといた。匂いなんてジンに嗅がれたら勘付かれたら大変だもの。
だから一応予防線は張ったけれど、
組織にばれるのも時間の問題でしょうね。
そこで私が菜々を護る為に考えたことが一つ。実は結構前から計画は練っていたけど、今回で決心がついた。
ーーーその晩。
ある男へ電話を掛ける。
Prrrr…
「はい。」
「私よ。貴方にお願いがあるの。…バーボン?」
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