「っな!ちょっ、なにっ」
いきなり抱き締められたことに対する驚きと恐怖に戸惑いを隠せないでいた。
「君に危害は加えない。だからそんなに警戒心を剥き出しにしないでくれ。」
まるで落ち着け、と言われているように抱き締める腕の強さが強くなった。
そして、切なそうな声で呟く彼に自然と恐怖心は消えていった。
あ…この人……怖くない。大丈夫かもしれない。
小さな安心が心の隅に少しづつ生まれてきた。
すると頭が少しづつ冷静になるごとにどうしても聞きたくなった。
「……あの、ライ、さん?私と貴方って何処かで会った事があるんですか?」
「……さぁ?どうかな。」
素直に教えてくれたっていいじゃん。
ケチめ。
「知ってるんですよね?教えてくれたっていいじゃないですか。」
「そんなに知りたいのか?……じゃあ、まずその敬語をやめたら考えてやってもいいぞ?」
くっくっと笑われた。
「む、無理です。」
「さっきまでは敬語じゃなかったのにな?」
「……あ、あれは、仕事用なんですよぉ。」
強ばった笑顔が口元に浮かんだ。
ダメだ。もう仕事用の色気たっぷり強気キャラにはもうなれそうもない。
それになんか、すっごくペース乱されてる気がする、気付けば緊張感がいつの間にか消え去っていた。
「てか、ちょ…近いです、」
「ははっ、さっきまで楽しそうに俺の服を脱がせてた奴が言う言葉じゃないな。……あと敬語、な?」
まったくその通りだと思うとなんとも言えず、ただ照れを隠す為に顔をソッポに向けた。
「それに別に、これから続きをして構わないがな?」
優しく頬に手を添えられ、低い声で耳元に囁かれたので、全身が甘い震えに襲われた。
ーーー
俺が菜々に廊下で誘惑された時、正直クるもんがあった。
だが今、菜々の策に嵌る訳にはいかなかった。彼女は何者かを確かめる必要があったのだ。
だから年下で未成年、そして組織の女という理由を無理矢理こじ付けてなんとか理性を保ったのに。こいつがー菜々ーがキスなんかしてくるから。せっかく保ったものも簡単に崩れ去ってしまった。
結局まんまと菜々の罠に嵌まってしまった俺は、部屋のベッドの上に押し付けられた。
こいつが何を企んでいるのかを素早く見破らなければ、と思う反面、考えたくとも男の性(さが)とでも言うべきか、ドレスからはみ出さんばかりに盛り上がった白い果実達と、俺の上に跨がることによって大きくドレスの裾が上がり、下着が見えるか見えないかのチラリズムで、俺はかなり興奮してしまった。
そしてそこから突き出た細く長い滑らかな脚に目を奪われ、俺が菜々の身体をじれったく撫でながらキスをするごとに漏れる甘い吐息が俺の理性をどんどん崩していく。
だから純粋に思ったまま告げてしまった。
「イイ女になったな。」と。
結果的に怖がらせてしまったが、菜々がこんなただヤるだけの存在の様に成り下がるよりもただの男と女という平等の関係になれたのは結果オーライだと都合良く思うことにする。
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