Rojo | ナノ

Rojo

時間って、すっごく早い。
最愛の恋人と別れたのだってすっごく昔の事に思えてくる。

あれから私は無事に黒の組織の一員として認められ、"ヴェスパー"というコードネームも貰い基本は当初の予定通り科学者として活動し、そしてジンの命令があれば殺しもしていた。

「…い。……おい。聞いているのかヴェスパー?」
「……っ!ごめん。ぼーっとしてた。」

ポルシェ356Aの後部座席に座り、ぼんやりと車窓の外を眺めていた。
ジンは運転しているウォッカの隣に座っており、後部座席には私だけだった。

「しっかりしろ。…明日夜の9時に東都ホテルへ行って、裏切り容疑のかかっている"アドニス"を殺せ。付き添いは組織内の誰でもいいから使えばいい。いいな?」

ジンの殺しの命令は最近では私に回してくることも多くなった。それだけ彼の信頼を得ている証拠でもあった。

「ん。分かった。」
「…大丈夫ですかい?体調が悪いようですけど?」
「あ、いや、最近シェリーと新薬作りで盛り上がってて、昨日は徹夜で付き合わされたから眠くって、」

ふわぁ〜と大きなアクビをした。

「どうか風邪には気をつけてくださいよ。」
「………ええ。」

ウォッカはよく顔に似合わず優しい事を言ってくれる。

「おい。てめーのマンションの前に着いたぞ。今日はさっさと寝て休め。」
「…はーい。」

不器用ながらも意外と心配をしてくれてるジンに現実の差に恐ろしさを教えられる。

最近の誤算と言えば黒の中にも多少なりとも白が存在することを知ってしまった事だろうか。

***

ジンが用意しといてくれた、黒のミニスパンコールドレスを身につけ、
東都ホテルのパーティ会場内を堂々と歩く。
ドレスは少し派手めだが、下品過ぎずセンスの良さを再確認させられた。

「"アドニス"は……いた。」

金髪に鷲鼻。典型的な外国人顏の男がそこにいた。

私は潜入捜査員通称"NOC”として働くことを命じられた。本来CIAは情報収集を目的とし、危険な組織にも潜入捜査をする。私に課せられた任務は出来るだけ多くの黒の組織のメンバーを生け捕りにすること、手に入れた情報をCIAに提供することだった。
そのためには手段を選ばない。

だから今回も"アドニス"は殺すんじゃなくてCIAに引き渡し、組織には殺したと報告する予定だ。

銃のスコープの中のように、目標を密かに定める。

高身長に少し日本人離れした顏。
そして、ドレスに合うように施した化粧。今なら16歳なんて言ったってバレやしないだろう。
それさえか、もはやそれはジョークにしか聞こえないかもしれない。
そんな自分を想うと自信が妙に湧いた。

「今日、誰かと来てるんですか?」

誘うかのような猫なで声で尋ねた。
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