"Phantasm"というお店はある巨大な建物の最上階に位置する超高級レストラン。
一足店の中に入ればペルシャ絨毯が目に付いた。
敷かれた絨毯は、高級であることを足から伝えるためなのか弾力性に富んでいる。
「神崎様。こちらでお待ち下さい。」
案内された席はロサンゼルス街が一望出来る席であり、自然と言葉が漏れた。
「素敵…。」
「それは気に入って貰えて良かった。ルイス・グレイです。ルイスと呼んで下さい。初めまして。」
後ろから現れた男性は今日会う約束をしていた人だった。
元々予想していたのは初老の男性だったが、実際目の前に現れたのは50代前半の知的そうで若い男性だ
「神崎菜々です。この度はこのような素晴らしいお店に呼んで頂けて光栄です。」
「そうきっちりしなくて構わないよ。今日はどこかの企業向けの面接をさせに来させたわけじゃないのだから。」
***
「菜々君。君は善と悪は何処で線引きがされると思う?」
「…それは、」
いきなりの奇想天外の質問にびっくりした。てっきり志望動機とか、初代CIA長官を答えろとか、そういう類だと思ったからだ。
「ある話をしよう。
家畜を増やすと人間は食料としてその家畜を喜んで食べ、細胞を増殖すると、称えられ正義とみなされる。
じゃあ、ある貧困の酷い国があると仮定しよう。
その国のある女性が自分の産んだ子供の臓器を売買した。
つまりその女性は子供の命を売って生き延びたんだ。……君はその母親が悪だと、最低な人間だと思うかな?」
「……国が、……国の政治と貧困が悪いんでしょう。その女性はただ生き延びたかっただけ。悪くないといえば倫理的に反対する人もいるでしょうが、それは裕福な生まれだからこと言える甘えです。」
「あぁ。私もそう思う。母親が子供の臓器を売買するというのは悪というレッテルが貼られてしまう。だからこの母親は悪だと見なされる。
ただ、動物的人間の本能で自分の命を守ろうとしているだけのに。生き残るための食料費を稼いでるだけなのに。」
「……。」
憂いを含んだ様に話す彼はどこか寂しそうでもあった。
「菜々君の言う通り、ここアメリカや日本、そしてカナダやオーストラリアといった恵まれた国に産まれた人間は産まれつき裕福だ。多少の差は有るかもしれんが、少なくとも他の貧困国よりは。……そういう国の人間は簡単に言う〈可哀想〉〈最低だ〉と。
裕福だから彼等はそう言えるんだ。立場が違えばそんなこと言えないのに。
じゃあここで聞くが、菜々君の思う善と悪の線引きって何だと思う?」
「……自分の直感、とその時の状況によって変わります。コレだ。と言い切れることは出来ません。」
「ははっ。うん。私も同じ考えだよ。因みに現在CIAは組織を潰すことが正義だと考えている。…
…たとえどんな犠牲を払おうともね。だが君にその覚悟はあるか?自分が犠牲になるかもしれない覚悟が。」
「…正直ありません。でも私は逆に別の誰かを犠牲にしてでも組織を潰したいんです。犠牲になる為にCIAに入るんじゃない。あくまで私が潰す事が目標であり、両親への贖罪なんです。」
そう、自分が無力だった為に死んだ両親への。
「君は不思議だな。…なら、私に力を貸してくれ。一緒に、組織を潰そうじゃないか。」
「…それは、つまり、」
「あぁ、君をCIAの仲間として迎えよう。」
ルイスさんは私に握手を求めてきた。私も手をだしキツく握り返す。
CIAに、なることを許されたんだ私。
その事実に目頭が熱くなった。
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