Rojo | ナノ

Rojo

「とにかく、ほら撃ってみろ。冷静に集中するんだ。的と自分だけになれ。」
「結局この格好じゃないですか。」

それでもコレはコレで煩悩を捨てる練習になるかと思って気にしないことにした。

的に意識を持っていく。
しだいに、周りの音が一切、耳に届かなくなった。そこにいるのは私と的だけ。
意識も無く、指が勝手にトリガーを引く。

パシューー

「……あたった。」

正確には的の端の方にだが、
確かに当たった。
今まで、的にカスリもしなかったのにも関わらず、大きな進歩だ。

「………うそ、さっきまで全然だったのに。」
「やるじゃないか、少し癖を矯正しただけなのに。もう少し練習すれば650も正確に当たるようになるな。」

先ほどまで全く当たったという実感が湧かず、ただ呆然としていたが、
この人の言葉に実感と興奮が湧き上がった。

「当たったわ!ねぇ、みて!当たったの!貴方のおかげよ、ありがとう!」

トントンっと彼の胸板を叩いて
この興奮を伝える。
すると彼はフッと笑うと私の頭を撫で、

「赤井秀一だ。」
「赤井……しゅういち、」
「ああ。名前で呼んでくれ。敬語も別に使わなくていい。」

知りたくてもタイミングが掴めず、
聞けなかった名前。
《的に当たった事》と《名前を教えてもらった事》が重なり激しい喜びが心に湧き起こった。

「私は神崎菜々。赤井さん今日は私なんかの為に本当にありがとう!あと……もし迷惑じゃないなら、また会ってくれる?」

糸がぷつんと切れたような寂しさが急に胸に迫る。
気づけばもう夕方だ。今日という日が過ぎればもう会えなくなると感じた。

「ああ。勿論だ。だが、その時までしばらくお別れだ。」
「待つ。赤井さんとまた会えるその日まで!だからこの約束忘れないね。」

なんで私はこの時、赤井さんの連絡先を貰わなかったんだろう?
そんな考えすら浮かばなかったのだから。

恋は、…………本当に盲目だ。
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