「苺と桃の彩りカフェとパンケーキセットになります。」
新一に連れて来られたのはレトロとモダンな雰囲気が上手い具合に入り混じった素敵なお店だった。
「一口いるか?」
「……欲しい。」
新一がフォークとナイフを使ってひとピースを切り分け
いわゆる"あーん"状態にしてきた。
まさかそんな事されるとは思っていなかったため少し狼狽えたが、新一の顏を見ると、ニヤニヤと馬鹿みたいな表情をしている
へえへえ。楽しんでるじゃないの。
パクっと新一からお裾分けをもらう。
素朴な風味とふんわりした食感が私を夢中にさせハチミツの味がさらにイイ感じ絡み合う。余りの美味しさに思わず笑顔になってしまう。
「美味しい」
「……動揺しねぇのかよ。」
恥ずかしがると思ってイタズラをしてきたが、不発におわって面白くなさそうにした。
そう簡単には乗ってやらないわよ。
「新一、てかこの店…」
「あぁ。この前菜々が行きたいって言ってたの思い出したからさ。」
ぜってぇ連れて来たくてよ。
と綴られた言葉に嬉しいようなくすぐったいような不思議な気持ちになった。
「覚えててくれたんだ。」
「別に、菜々と来てみたかったし。」
先ほどとは打って変わって照れたような顔で主張してきた。
「これ食べた後は何処いくか決めたの?」
「ああ。米花水族館だ。午後からはイルカショーもあるみてぇだから。」
新一の話を聞きながら、
パフェに手を付ける
バニラアイスを口に含んだときの適度な柔らかさと滑らかな食感。真っ赤に熟れたイチゴの甘酸っぱさが本来の果実本来の自然な風味を引き立てている。
うまぁ。
食べてる最中も思いつく限りの話題を共に話し合い有意義な時間を過ごすことが出来たし満足する。
……ただ、新一のシャーロックホームズの話が多かったようにも思えるが。
モリアーティ教授の話はもういいんだよ。
***
甘いものを食べ終わり、まさにお店を出ようとした時だった。
「きゃゃゃあああ!!!」
女性特有の金切り声が店中に響きわたった。
声の発生源を見入やるとそこには、目を見開き動かなくなった女性と、そこに駆け寄り必死に名前を呼んでいるヒトが男女合わせて4人いた。
新一を見ると近寄りたそうな雰囲気を溢れんばかりに醸し出していた。
ソワソワしちゃって。
ふふっ。もう。遠慮なんかしなくてもいいのに。
「新一。早く事件解いてきたら?」
「……菜々。悪ぃ!すぐ戻る。」
そう言い残した新一は女性の元に駆け寄り捜査をし始めた。
前までは新一が事件を解く姿を見ると、顏を背けたくなるような、自分が自分でイヤになるような感情に度々襲われてきたが、
夢を決心した後だからか……そんな事も思わなくなっていた。
乗り越えられたんだ、私。
そう理解すると心が軽くなったような気がした。
***
「・・・犯人は被害者の日頃の癖を知っていて利用したんです。
紅茶や珈琲にミルクや砂糖を入れ、それらをかき混ぜたスプーンを舐める癖をね!
そしてそのチャンスがあった犯人は貴方しかいないんですよ!」
犯人は被害者のカレシだった。
ビシッと犯人に指を差し、堂々と推理を並べる彼は本当に魅力的だった。
やっとこの私でも、事件を解く新一の姿を格好良いと認められる日を迎る事が出来きるなんて。
「菜々!行くぞ!今ならショーに間に合う!」
急いで戻ってきたかと思うと腕を掴まれ共に走らされた。
心の変化を確認させてもらった日。
この日を私は絶対忘れない。
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