※最終話後

家の隣にカレー屋が出来た。何やらインド人が経営しているらしいその店は、それなりに人も入っているらしい。店の人間全員がワイシャツに黒ネクタイ、それからターバンという奇妙なカレー屋。しらすカレーという文字がまた何とも言えない感じである。


「こんにちは」
「こ、こんにちは」
「お散歩ですか?」
「まあ、はい。えっと…」
「…ああ。山田です」
「はあ…えっ?」
「あちらの家の方ですよね?ご挨拶がまだだったな、と」
「これはまた、ご丁寧に。…えー…」
「住居も兼ねた飲食店なので。改めまして、アキラ・アガルカール・山田です」
「山田さん…みょうじなまえ、です」
「みょうじさん。よろしくお願いします」
「お願い、します」


ハーフ、なのかな。アガルカール・山田だし、名前もアキラだし。この顔を見て山田なんて誰が想像出来るだろう。しかしこのカレー屋、いつの間にここに出来たんだ。噂も何も聞かなかったぞ。


「山田さんも、お散歩?」
「まあ、そんなところでしょうか」
「……」
「タピオカです。珍しいですか?アヒル」
「いやっ、珍しくは…ないですかね、多分」


山田さんの足元の塊、タピオカという名前のアヒル。アヒルがこんなところを歩いているのは確かに珍しい、けど。タピオカは真っ直ぐに私を見る。アヒルだというのにものすごく見透かされている感じというか、ただならぬ雰囲気だ。


「……只者じゃない」
「なっ…!」
「山田さん?」
「ああいえ。…みょうじさんは、ご存知なのですか」
「ご存知?やっぱり特別なアヒルなんですか?タピオカは」
「た、タピオカ?ああ、タピオカ…」
「…違うんですか?」
「いいえ!…そう、ですね。タピオカは頭のいいやつです」
「へえ…」


山田さんの目が泳ぐ。不味いことを口にした感じだ、何だか。相変わらず私を見るタピオカから逃れる術はあるのだろうか。よくわからないけど落ち着かない、この黒々とした目は。


「…山田さんって」
「はい?」
「実は大統領専属の何かとか、国を動かす立場の人間とか、そんな」
「え、それは何故…」
「只者じゃないって、反応していたので」
「――…ただのカレー屋の店長です。釣り好きな」
「釣り、お好きなんですか」
「ええ」


店長だったのか、しかも。



end.

20130405 むじ


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