普段より高めのヒールに大人っぽく見える服。実際に見たことはないけど草薙さんには金髪美人の知り合いがいるらしいから、その人と比べて見劣りしないように。

これなら少しだけ。ほんのちょっとだけでも女の子から抜け出せるんじゃないか、なんて。


「いらっしゃい。…おお、なまえちゃんか」
「こんにちは」
「はいこんにちは」
「…まだオープン前、ですよね?」
「自分から入っといておかしなこと言いなや。開店前に躊躇いなく開ける人なんて、なまえちゃんか世理ちゃんくらいのもんやで?驚く必要もありません」
「……そうですか」
「暗い顔しなさんな。折角可愛い格好してんのに勿体ない」


世理ちゃん、それが草薙さんの知り合いの金髪美人なのだろう。その呼び方もだけど、自分なりに頑張った大人の女演出も草薙さんに言わせれば「可愛い」に収まってしまうという事実も悔しい。草薙さんに褒めてもらえるのは嬉しい、だけど出来れば、綺麗って。


「悩み事ですか、お嬢さん」
「…大人っぽくなりたいと思って」
「え、そないに歳変わらんやろ。なまえちゃんは年相応やし、何も問題ない思うけど」
「でも、年下です」
「同い年のなまえちゃん、か。少し見てみたいかもしれん」
「昔の草薙さんがここに来るか、未来の私がここに来るかしないと無理ですよ」
「なら未来のなまえちゃんに来てもらおか」
「無理です」
「…なまえちゃん?」


穏やかで、それからどこか愉快そうに輝いていた瞳がただ疑問を孕む。しまった、これは大人っぽくない。草薙さんのいう世理ちゃんなら、こんな反応はしないのかもしれない。


「…いっ、いえ、何でも。同い年の草薙さんか。見てみたいな、確かに」
「そない変わらんて。なまえちゃんの期待には添えそうにないわ」
「草薙さんはかっこいいです。お爺さんになっても、絶対に」
「ははっ、えらい褒めてくれること」
「わたし、」
「なまえちゃんもいつまでも可愛いよ、うん」
「聞く気あります?」
「あるある。拗ねんと、なあなまえちゃん」


だから、綺麗って。
でもその世理ちゃんが可愛いって言われてないなら、それも。



end.

20130407 むじ


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