腹いせにソファーを軽く蹴ったところでここは技術大佐の部屋ではないかとはたと気付く。何と言うこと、確かにソファーは技術大佐の私物ではないが部屋が技術大佐のものである以上は技術大佐のものだ。私としたことが。こんな失態を演じる羽目になったのも、そもそも。


「おー、怖い怖い。変態に熱上げてるわ顔ヤベェわ、そりゃ寄って来る男もいねぇって」
「興味がないから特段問題とも思わない。そもそも、あんたに言われる筋合いがないんだけど」
「愛しの技術大佐様とえらい違いだなァ、おい。ちったあ可愛らし〜い声出せないんですかねェ、なまえちゃん?」
「寝るなら私室か仮眠室にいかれては?ハザマ大尉」
「残念、レリウス大佐に用がありまして」
「ならば普通、許可があるまでは立っていませんか?我が物顔で寝転ぶなんて聞いたこともない」


連絡を受けた技術大佐は準備があるからと私を向かわせた。つまり私は歴とした技術大佐のご命令でテルミの相手をしているのだ。話し相手にでもなってやれと、そう言われて。


「俺とあいつの仲だぜ?遠慮する方がキモい」
「その発言がキモい」
「顔!」


相変わらずソファーに寝転んだまま腹立たしい表情で笑うテルミ。その横っ面を力の限り引っ叩きたいという私の隠す気もない宿願は未だに叶えられてはいない。今、今なら横っ面を。


「…私は話し相手になれと言われたけど、いても問題はないの?」
「あっちからの報告は診断結果だから何の問題も。俺からは――…ま、愛しの技術大佐サマに言われたら出りゃいいんじゃね?」
「…あっそ」


この金色の目が、脳に響くような声が嫌いだ。好きなところ、いくらか譲ってマシなところと尋ねられたって何一ついい点は浮かびやしない。ないだろうこいつには。まあ探す気が私にない、というのもあるが。


「嫌われないようにすんのも大変ね。ご苦労様です、なまえさん」
「……ご心配ありがとうございます、大尉」
「いえいえ」


くそう、腹立つ顔だ。



end.

20130427 むじ


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