「言えばいいのだよ」
「え?」


足を止めて(恐らく)気に入らないと言うように私を見るのは緑間くん。言えばいいって何をだろう。わからず黙っていると、緑間くんは更に顔を顰めた。私が悪いのか、うん、緑間くんが見ているのは私だ。だから原因も、私以外にはいない。


「自分に合わせて歩いてほしいと、考えろと。汲み取れと言うのは無理な話だ」
「…えっと、うん」
「…わかっているのか?」
「え?うっ、うん。わかってる」
「ならば言ってみろ」
「……私に合わせてほしい?」
「復唱しろと言ったつもりはないのだが」


これは、昨日の話。
「真ちゃんの彼女かー、へ〜真ちゃんの!」と楽しそうな声を上げた高尾くんにアドレスを聞かれ、「真ちゃんって面白いよな。そう思うっしょ?」という意図不明なメールをもらった。私には高尾くんの言っていることはわからなかったから「真面目だよ。変わってるけど」と返したら「みょうじさんも大概」なんて言われてしまったのである。メールはそれで終わり、今日は高尾くんと顔を合わせることなく一日を終えた。尋ねることは出来ずじまい、だ。


「言われたのだよ。オレはみょうじと比べて背が高いから、ちゃんと気を遣うべきだと」
「確かに高いね。何時も顔上げなきゃ…あ、でも緑間くんも私と話すとき下向かなきゃだし、大変じゃない?」
「オレの話ではなくみょうじの話だ。息が上がるんじゃないか、見てるかと言われるのだが、みょうじは何も言わない。…どうなんだ」
「…足大きいな、緑間くんの一歩は私の何歩だろうとは思ってるけど……他には、別に」


自己中心的、我が道を行く。アドレスを聞かれたときに高尾くんが口にしていた緑間くんの印象だ。閃いたように「占い!」と言い放って大笑いする姿は流石に驚いたけど。占いってあれだよね、おは朝の。ラッキーアイテムは毎日持っているんだって本人が言っていた。


「……気にしていない、ということか?」
「ん?うん」
「………何がみょうじさんが悩んでいる、だ…」
「悩む?高尾くん?」
「そこで何故すんなりと高尾の名前が出る。まあ、高尾なのだが」
「何でだろう?…何となく?」


瞬間、同意を求めてきたメールについて緑間くんに話そうかと思ったけどその考えはすぐに消え去った。これも何でだろう。それよりも重要な伝えたいことがあるから、とか。


「悩んではいないけど」
「意見があるのか」
「伝えたいことかな?私、緑間くんの背中を見てるの楽しいよ」
「は?」
「バスケやってるとき、いつも背中見てるから。だから気にならないのかも」
「…高尾」
「うん、高尾くん」


つまり高尾くんは、私に合わせて歩けと。そう緑間くんに言ったのだろう。並んで話しながら歩くのもいいとは思う。でもまだそれは緊張するから、少し後ろを歩いて分かれ道で「また明日」って、そんな一言を交わすくらいでいい。


「気にしてないよ、私」
「そうか」
「あ、そうだ緑間くん」
「何だ?」
「ラッキーアイテム。あるかもしれないから、写真撮らせて」
「オレの写真が?」
「彼氏の写真」
「…ああ」

ゆっくりと、外れる視線。私も追い掛けるのは恥ずかしくて、そのまま携帯を取り出す。あ、まだ緑間くんの返事を聞いてない。今、聞けば。

「緑間くん、」
「オレも」
「写真」
「みょうじの写真を撮るか。これで、お互い困ることはない」


メールするね。
また明日のあとにそう続けられた記念日は、何時になるだろう。



end.

20130430 むじ


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