「贈り物ですか」


そう尋ねると「ああ」とだけ返ってくる。義兄上は何故、私に。


「義兄上はお詳しいでしょう」
「だがこのところは顔を合わせていないし、文のやり取りもな。お前の方が好みを熟知しているんじゃないか、と」
「まさか」


わざわざ直次様が席を外されている時に。いの一番に弟の顔を見たいだろうに、義兄上は私に直次様のお好みについて問われる。

互いに張り切っている、というのか。直次様は義兄上のために酒や肴となるものを買いに行かれ、義兄上は直次様に贈り物をしようと画策なさって。直次様まで「兄上はどんな酒を好まれるだろう」と私にお尋ねになる始末だ。絶対に私よりも知っているはず、そんなに不安になる必要はあるのだろうか(私には理解が出来ない)。


「直次様も義兄上も、私に問うというのがそもそもの間違いです」
「直次もお前に聞いたのか。何を?」
「義兄上のお好みの味、でしょうか」
「…成る程。可愛い弟だ」
「義兄上、義姉上に眉を顰められますよ」
「ギン千代が父上について話すときと変わらないさ」
「…はあ」


だから何だと言うのです。そうは思うけれど口にはしない。お伝えしたところで義兄上はただお笑いになるだけだとしても、彼は直次様の義兄上なのだ。直次様が快く思われないだろう行動は慎むべき、それに私は何も義兄上を嫌っているわけではないのだから。


「そう言えばだ、なまえ」
「はい」
「いい柄の小袖だな」
「直次様が、」
「直次。羨ましいな、それは」
「…どちらが?」
「どちらとは?」
「…いいえ」


義兄上は時折、私には難しい物言いをなさる。柔和な表情ではぐらかすものだから深く追求も出来ず終い、これにだけは血縁となり数年経った今でさえ妙なむず痒さを感じている。


「………」
「うん、可愛い義妹が出来たのは喜ばしいな」
「人が黙り込んだ時になんです」
「弟も義妹も好きだという話だ。ギン千代もそう思っているさ」
「小袖と関係がないではありませんか」
「それは、いい柄だ、直次からの贈り物かという点で片が付いているだろう」
「…ここ数日の直次様は、義兄上がいらっしゃるからと大層浮かれておいででしたよ」
「ん?何、悪いことをしたな」


ぽんぽんと、本当に軽く頭を叩かれた。そんな義兄上の行動に羞恥心が込み上げる。小さな小さな悔しさ、子供のような直次様を見たことで生まれたその感情は容易く義兄上に拾われてしまったではないか。その上あやされるとは、まるで私まで子供。義兄上にとっては妹なのだからある程度は、仕方がないのかもしれないけれど。


「義兄上には勝てません」
「勝ちたいのか?」
「…わかりません」


私自身そうされるのが嫌いではないというのが、また何とも。



end.

20130424 むじ


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