「どっ、どうでしょうか!」


上気した頬、強張った身体に上擦った声。誰がどう見てもなまえ殿は緊張している。「どうでしょうか」というのは問い掛けで、そりゃまあ目の前にいるのは俺なわけだから、俺に答えを求めているわけだ。どう。どう、ねえ。…俺に聞かれても(俺に聞きたかったんだろうけど)。


「華やか、だね」
「はい!」
「なまえ殿のそういった姿は見ないが、あ、見ないからか?新鮮だ、とも思うかな」
「…はい」
「え?不満?」
「い、いえ!そんな、不満は…」


いやいや、絶対気に入ってないよな。一瞬にして不機嫌(は、言い過ぎか)、落ち込んでるじゃないの、なまえ殿。


「武人には不要だと言っていたような気がするんだが」
「たまには、たまにはです!…あの、華やかというのはつまり。好意的に受け取っても…?」
「そうだね。普通はそうじゃないかな?」
「…嘘だとか、適当だとか。そんなことは、ないですよね?」
「いや、そこまで疑われる理由がわからないんだが」


なまえ殿が見違えたのは普段から質素な姿であるからで、別に俺が特別な感情を抱いているからではない。女が化ける生き物だというのは十二分に体感しているし、ね。
そもそも曹操殿や曹丕殿の周辺には美貌の女が多いわけで、特別揺さぶられるはずもないだろう。それ以上にならないとしても、美しいものに目を奪われるのは道理だ(現に、最近奥方となられた甄姫殿を見る女官はうっとりと息を漏らす)(なまえ殿も同じく)。


「郭嘉殿が、賈ク殿は適当だからと言っていました」
「あははあ、よく言うよ。自分だって大概だろうに」
「曹操様と女性への言は誠実、だそうです」
「女性?…ま、その日相手にしてる女性にはってことか」
「…適当、ではないのですよね?」
「華やか。心の底から思っているさ。いやあ、しかし妙だね、なまえ殿」
「何がでしょう?」


余計なことばかりを吹き込む曹操殿のお気に入り。「なまえ殿は可愛らしいね。妹のようだよ」という感想を抱いているならば、もっと普通に可愛がってやればいいと思うんだが。それとも何か?こうして真に受けて礼を言ったり頼ったり、そんな姿が妹のようだと(妹か、それは)。


「俺に見せたくて来たはずなのに、信じるのは郭嘉殿の言葉とは」
「違います!私は本当に、賈ク殿にお見せしたくて。色事ならば郭嘉殿を頼るのが正しいかと――」
「色事?」
「ちっ…!い、いえ、違いませんが!」
「そんなに慌てなくても。逃げないって」


ひらひらと。
普段は動かない布が揺らめくのが面白い。ああいや、可愛らしいのかな、それなりに。



end.

20120303 むじ


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