「おう、上出来じゃあねぇか」

嬉しそうでいて、何処か小馬鹿にしたような響き。何故いるのかはわからない小太郎の唇が愉快そうに持ち上がったかと思うと、よく見知った父上はやはり煙管を燻らせていた。別段咎めるわけでも煙管が嫌いなわけでもないけれど、つい眉を寄せる。父上は怪訝そうだ。


「煙管を吹かす父上は素敵だって、餓鬼ん時に言ってなかったか?ん?」
「染み付いてしまいます」
「いっちょ前に色付きやがって。すっかり女気取りかよ、なまえ」
「女であるから嫁ぐのでしょう?父上が最初に認めてくださったようなものではないですか」
「けっ、言いやがる。生意気に育ったもんだぜ」
「父上に似たのでしょう、恐らく」


私の言葉に小太郎が笑う。父上が無言で睨みを利かせるけれど、小太郎にはまるで効果がないようだ。幼い頃に叱られた(しかも、拳骨付きで)経験があるからか、私はどうにも身構えてしまう表情。そして小太郎はその反応も面白いらしい。私に限らず、兄上らが身体を縮めても同じように笑うのである。


「どうする氏康、可愛い娘に嫌われたぞ」
「昔から嫌われてる奴が何言ってやがる」
「クク……拗ねたな。なまえ、うぬの父親は身体だけが成長した幼子だ」
「小太郎。それをからかって喜ぶなら、あなたも十二分に幼子よ」
「ざまあみやがれ」
「この叱責が聞けなくなるか。…悲しいな、氏康」
「…笑いやがって。何かいいことがあったのかい、オバケさん?」


そういえば父上は、たまに小太郎を「オバケさん」と呼ぶ。闇夜に現れたら確かに怖いし、見た目だろうか。また囁くように話すものだから、一層怖く感じてしまうのだ。父上も怖かったけれど、幼い私はそれ以上に小太郎に怯えていたような気がする。


「氏康の落ち込む姿が実に滑稽故、だろう」
「落ち込んじゃあいねぇよ。娘の晴れ姿、嬉しいに決まってらあ」
「父上…」
「何。あの母上様の娘だ、良妻になる定めってな」
「それ程までにいい女、ですか?」
「ド阿呆、母上様を超えられる娘なんざいねぇよ。精々、旦那にとって最高の女になりやがれ」
「……やっぱり」
「今度はなまえが拗ねたか…」


肉親に小太郎。小太郎が自慢をするのかはわからないけれど、思わず誇りたくなるような花を、咲かせよう。



end.

20120228 むじ


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