「如何なさいましたか?夏侯惇様」
「いや」


少々、丈が短く。俺の答えを聞いているのかいないのか、驚きを含んだような声を上げた後に「繕い直さねばなりませんね」などと零すなまえ。その態度が気に入らんわけではない。居心地が悪いというのは、事実だが。


「お前こそ、何だ」
「何だと申されますと?」
「何だはなん…そのままだろう」
「はあ。それは当然、そうですが。夏侯惇様がそう口になさった意味がわからねば、何とも答えようがございません」
「ああ、まあ。その通りだな」


事前に用意してあった布を数点、俺に渡す。好きな色を選べ、ということだろうか。孟徳や甄姫ならば(曹丕もか)好んで選ぶのだろうが、正直俺にはそこまでの拘りは存在していないんだがな。余程滑稽に映らんのであれば、問題もないだろう。


「それでいい」
「まだ他にも」
「派手な色は似合わんだろう。わかっていて用意しているのではあるまいな?」
「そのような。…何かご気分が優れませぬか」
「何故そう思う」
「不躾ではございますが。当たっているように思えたもので」


口では何だかんだと言いつつ指したもの以外を片付けに掛かるなまえ、その口元は愉快そうに緩んでいる。基本的な礼儀は身に付いているが、それなりに付き合いを重ねた仲だ。ふとした瞬間にまるで友人(と断言できる程ではないにしろ)のような姿になるのもそれ故だろう。

俺との付き合いが長い。つまりは、孟徳との付き合いも。


「……碁を」
「ああ」
「得心されるのも癪だが。
それで、あまりに俺が負けるものだから、物を贈ることになってな」
「お決まりになったのですか?」
「一つ考えはしたが、」
「が?」
「止めた」
「あら。振り出しですか」
「振り出しだ」


先程までとは異なるなまえの笑み。我ながらまったく、馬鹿らしい。



end.

20120227 むじ


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