下弦の鬼と戦った翌朝。


蝶屋敷にて苗字は治療を受け、ベッドに居た。
善逸は付き添いで来ており、一休みしてからまた任務が出るそうでそれまで苗字のところに居座ることに。



「名前がいなかったら今頃俺はああ」と半べそになりながら怪我があまりない苗字の足元に寝そべるように抱きついた。



「もー」と言いながら善逸を見ていると善逸が身震いをする。


「どうしたの?」



苗字は疑問に思い善逸に問いかけるも反応はない。


すると苗字ハッと病室の出入口に目線を向けるとそこには全く気配のしなかった師範が立ちこちらを見ていた。



「師範?!」


苗字が杏寿郎に気付き驚くと善逸も少し飛び上がりまた、「師範?!」と同じセリフを発してしまう。


慌てて善逸は苗字から離れ、杏寿郎の方を見る。



「名前に師匠がいたなんて…ずっと独学でやってるのかと思ってたよ…」


「あれ?言ってなかったっけ」



「言ってないよ!!初耳だよ!!」




師範の前でキャッキャと話していると杏寿郎は低い声で「苗字」と呼んだ。


この時善逸は「まずい」と感じ、「じゃあ俺はこれで」とそそくさとその場をあとにした。



「怪我の具合は?」



杏寿郎は苗字の元に寄り質問をする。
その師範の姿、表情は何かいつもと同じようで違う気を感じた。



「(怪我したことに怒っているのだろうか…)」


そう思いながらも現状の症状を簡潔に説明をする。
「うむ」と静かに返事をされ、全治次第煉獄家に戻るように指示をする杏寿郎。
そのままその場から去ろうとする師範に少し寂しさをも感じた。


病室の出入口の前になると杏寿郎はピタリと立ち止まり、こちらに顔を向けずに話し始める。



「あの黄色い少年とはどのような関係だ」



「えっ?あ、善逸の事ですか…あの子は私と同じ時期の最終選別を合格した同期です。我妻善逸と言います。」



「…そうか」

そのまま師範である杏寿郎は黙り込んだしまうが再び話す。



「恋仲なのか?」


まさかの師範からの発言で一瞬理解が追いつかなかった。
そんな!まさか!!と全力で否定をする。それから善逸ごめんと心の隅で今いない善逸に詫びた。





「苗字、君は鬼殺隊である前に1人の女性だ。容易く男に身体を触れされるな」



そう言うと杏寿郎は病室から去っていってしまった。



「怒られた…?」




いつもの明るさがなく、少し低い声で言われた為怒られたと感じた苗字。



よく言われた言葉の意味を理解し阿婆擦れ≠ニ思われてしまったのではと考えつくととても恥ずかしい気持ちになる。


「女性…か…」


「女性」という言葉も心に残る。
鬼殺隊になってからはまともにお洒落もしなければ、肌の手入れも以ての外。
今の自分に女性と自覚がないと思うと更に恥ずかしく、少し悲しく感じた。



「肌の手入れだけでもし始めようかな…」



そう決意した苗字であった。
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とっぷ