作中の表現について 「ナンパ」が使われていますが、大正時代の「軟派」というより現代の「ナンパ」として捉えて頂きたく思います。

それから2人は街を歩いて見て回り、時には食事を取ったり、お店に入って雑貨を見るなどして過ごしていた。

その間にも先程甘露寺から伝えられた師範が自身のことが好きだという話が頭から離れず、歩いている道中も月があれば、師範の顔をまじまじと見てしまう。

よく見てみるとその顔立ちはとても整っており、瞳さえも吸い込まれるような綺麗なものであった。

「(前からなんとなく感じていたけど、師範って二枚目なんだなぁ…)」

2人茶屋でみたらし団子を食べながら、苗字はぼーっと杏寿郎の顔を見ながら団子を手に持っていた。


「どうした苗字!俺のが欲しいのか!」

同じ団子を持っているというのにそう聞いてくる師範に対して慌てながらも笑う。

「師範こそ私のを狙っているのではないのですか!」

気を取り直して苗字は凛とした顔で杏寿郎に団子を向けて言うと杏寿郎は一瞬にして団子に食らいつき気付くと串のみとなっていた。

「なっ?!」

「む?」

苗字は驚き、杏寿郎は口を団子にいっぱいにして頬を膨らましながら不思議そうに苗字を見た。

「本当に食べると思ってませんでした…」

「駄目だったのか!それはすまない!俺のをやろう!」

杏寿郎は持っていた団子を苗字に口の前に差し出すと、苗字は団子相手に圧倒されてしまう。

それは「こんな恋人と戯れてるような事してていいのか」という気持ちがあったからだ。

急に恥ずかしくなり、顔が赤くなるのを悟られないように団子を一つだけ食べては後ろを振り向いた。

後ろからは杏寿郎からの優しい目線を感じる。

「(師範と恋人…)」


苗字は急激に顔が赤くなるのを感じ、素早く横に首を振り考えるのをやめた。

茶屋を済ませるとまた行先も告げられずに歩き始めるものの、今のところ目的を果たすよう場所や約束事もなく聞くに聞けない状況が続く。


日が沈み夜を迎えかけた時、上の空だった苗字は師範との距離が少し離れたことに気づき近づこうとすると、ハイカラな女性2人が師範に声をかけていた。

道を聞いているのかと思えば話し声を耳にするとナンパだと察する。

「(あんな綺麗な女性に声かけられて嫌ではないだろう)」

自身はここで解散しても良い、合図さえくれればそうしますと思い師範の姿が捉えられる範囲内で苗字は距離をとる。


「ねぇねぇ、そこのお嬢さん」


男性の声がして振り返る苗字。
「なんでしょう?」と返事をすると男性が2人苗字を見て怪しい笑みを浮かべていた。

すぐにナンパと察した苗字は師範の合図を待っているのにといかにも嫌な顔をするものの男性らは「かわいい」「遊びに行こう」とひたすらに声をかけていた。

「師範の指示を待ってます」と強く言いかけるも「師範?」と笑われるのを予想して口が出なくなってしまう。

どうしようと師範の姿を確認しようと後ろを振り返るとその目の前を通り過ぎるように、師範が現れる。

声をかけていた一人の男性が苗字の方を掴もうとしていたところ、杏寿郎がその手首を強く握り閉め、男性は痛みを感じ無言で堪える。

「俺の連れに何か用か!」

杏寿郎は男性達よりも背は高く、上から見下されながら迫力のある声に怖気付き1人は手を振り払い2人は逃げ出した。

[NEXT]

とっぷ