苗字は蝶屋敷を退院して後日。
自身の身体の事を完全に立ち直れた訳ではなかったが、気を引き締め早朝から練習を行っていた。

炎柱の継子どころか鬼殺隊さえも辞めようとはしていた苗字は師範である杏寿郎に慰められ継子として生きることを決意する。

「苗字」

「師範!おはようございます!」

声をかけられた方を見ると師範の杏寿郎の姿。
だがいつもと違い師範の姿は隊服ではなく、私服であった。

「感心感心!しっかりとやっているな苗字。だがすまないが、今日は少し俺に付き合ってくれないか?」

苗字は「?」と不思議に思いながらも「はい!」と返事をする。
家の外に行って待っていると杏寿郎は苗字に伝えるとその場をあとに。

苗字は急いで木刀を片付け、外へと向かう。

家の外では杏寿郎は腕を組んで待っていた。

「し、師範、お待たせ致しました!」

慌てて来たため少し息を切らして詫びると杏寿郎は苗字の方に目線を向けた。


「大して待っていない!苗字は私服ではないのだな!」

「えっ、あっ、すみません…隊服しか服を持っていなかったもので…」

苗字はぺこぺこと頭を下げながら謝ると杏寿郎は苗字の頭に手を置いて数回撫でた。

「そう謝るな。仕方ないだろう!早速行くか!」

「あっ、はい!!」


先を歩いていった杏寿郎に間に合うように少し駆け足で近づき、杏寿郎の一歩後ろあたりでついて行くように歩いた。


しばらく特に会話もなく歩き続けると街中へと入っていく。
周りを見渡せばハイカラな服を身につけたお洒落な女性が多く、恋人同士らしき男女もいた。

自然と苗字はその光景をじぃっと見てしまっていた。

「苗字、この店に入るぞ!」

杏寿郎は突然立ち止まり、ぶつかりかけたものの寸止めで済んだ。
杏寿郎から後ろ足で少し離れ、お店を見るとそこは着物を中心に取り扱う服屋であった。

苗字は「女性もの…?」と疑問に思いながらも店に入っていく杏寿郎に慌てて着いていく。

店員に話しかける杏寿郎との会話は聞いてはいけない気がして苗字は少し遠くから見守った。

店員はちらちらと苗字を見ていた為、身だしなみがしっかりしていないとか不細工だとか思われたのではと少し気分を落としていた。

しばらくすると杏寿郎が声かけた店員は着物を持ちニコニコして苗字の近くに寄る。

「試着室はこちらになります」

店員は苗字に向かって声をかけながら、試着室を手で示していた。

「え、私?」

少しと奥後ろの方にいる杏寿郎を見ると微笑んでいた。

「(もしかして好きな人への贈物…?)」

どこか複雑な気持ちになりながらも、そういうことならと試着室へ向かった。

[NEXT]


とっぷ