「本当なのか名前」 杏寿郎は目をぱちくりさせ名前に問う。 「間違いないとは断言できませんが、おそらく…」 そう答える名前に対して、杏寿郎は動かずにその場で固まってしまう。 「杏寿郎さん…?」 名前は恐る恐る杏寿郎に声をかけると、突然杏寿郎は名前に飛びつくように抱きついた。 「わっ…!」 「あっ、すまない、身篭っている身体というのに、大丈夫か?!」 状況に混乱しながらも「だ、大丈夫」と答えると杏寿郎は満面の笑みを見せ、名前を抱き直した。 そのまま杏寿郎はしばらく抱いたままで、名前の首元でもぞもぞと顔をすり付けるようにした。 「名前…」 「どうしました…?」 再び杏寿郎は抱きしめる。 「ありがとう…」 杏寿郎は泣いているような少し震えた声をして名前に感謝の言葉を伝える。 「いままで酷いことをして本当に…申し訳ないことをした…」 「杏寿郎さん…」 名前も杏寿郎のことを強く抱いた。 「杏寿郎さんは何も悪くありません。事の発端は私です。それでも私のことを…」 2人は謝り合いながら抱き合う。 しばらくしてから2人は互いから離れ、お互いの表情を見ると杏寿郎は潤んだ目をして、名前は涙を流したあとがあった。 「まずは風呂に入って着替えだな」 杏寿郎はまだ拘束されていた名前の縄を解き、乱れた浴衣も余計な肌の露出をしないように着付けをする。 2人は手を繋いで、杏寿郎に引っ張られるようにふろ場に行くと「一人で大丈夫か?」と言われ「大丈夫」と返した。 1人のお風呂はいつぶりだろうか。 ゆっくり風呂に使っていると風呂の外から杏寿郎から服を置いておくという声が聞こえた。 風呂にしっかり浸かり、終えて風呂場を出ると見たことがない着物と袴が置いてあった。 杏寿郎の用意した服とはこれかと思いながら身につけていくと、着物は赤地に花柄で袴は濃い紫色をしてとても可愛らしいものとなっていた。 服をみにつけ、杏寿郎の元へ行くと彼もまた見慣れない私服で少しときめいた。 「杏寿郎さん…この着物と袴は…?」 その声に名前に気付いた杏寿郎は振り向くと微笑み「似合っている」と喜びを見せた。 「その袴は君に贈ろうと思って用意していたものだ。なかなか渡す機会がなくこんな形で渡すことになってしまったが…」 名前は素直に喜び、「ありがとう」と杏寿郎に向けて微笑んだ。 杏寿郎は名前の体調に気を使いながら産婦人科がある病院へと向かう。 道中、名前は杏寿郎の後ろをついて歩いていた。 名前はふと思えば恋人である前からも私服でこうして2人で出歩くことはなかったなと少し寂しそうにする。 その様子にも杏寿郎はすぐに気付き心配して声をかけるも、大丈夫と伝え安心させると微笑みを見せてくれた。 あまり産婦人科というものが主流でなかった為、病院にたどり着くと未知の世界へ行くようで少し緊張を感じる。 杏寿郎は静かに名前の手を握り、受付を済ませ診察室へと向かう事となった。 |