ー臨時休業ー

婚姻するための届出を出すために名前と杏寿郎は役所にたどり着くも、入口にはその文字が記されていた。

2人は唖然として杏寿郎は笑い始める。

「よもや!仕方あるまい!」

名前はまだしっかりと決心していなかった為か、胸を下ろす。
少し安心したような、残念なような、そんな気持ちを抱きながら「はっはっはっ」と笑う杏寿郎を微笑んで見守った。

目的がなくなってしまった2人は、煉獄家へ帰ることを決める。

帰り道にはお土産にと甘味を買い、名前の服も見ては気に入ったものを数着購入した。

そういった意識はなくとも、逢い引き≠している事に2人は心からこの時間を楽しむ。


煉獄家へ着けば槙寿郎と千寿郎を食卓へと呼び出し、お土産の甘味を4人で食べながら事情を説明した。

名前と息子の杏寿郎が夫婦になる事を何気に楽しみにしていた槙寿郎はどこか残念そうにしていたが、千寿郎が「事実婚」という言葉を発してから少し喜びを見せていたような気が名前にはしていた。


いつも通り時間を過ごしては、夜に名前と杏寿郎は2人きりになり縁側で杏寿郎の晩酌に付き合っていた。


「事実婚…か…早く君と正式に夫婦になりたいものだな」

「あはは、まさか臨時休業しているとは思いませんでしたものね。」

「だがそれを知った直後君は胸を下ろしていたようだったが…?」

「あっ、それは…」

図星をつかれ少し慌てる様子を見せる名前。
杏寿郎はしっかりと名前の表情を伺えるようにと酒を片手に顔を覗き込む。

「まだその…師範と夫婦だなんて夢みたいで…現実をまだ直視できていないというか…」

「それは、俺と夫婦になるのが嫌と「いいえ!そういう訳ではありません!決して!!」

杏寿郎の言葉に慌てて顔を上げて弁解するも、目の前には彼の顔が近距離にあり思わず顔を赤くしてしまう。

名前はほんの少しだけ顔を離し、視線を逸らして言葉を続けた。

「やはり、私なんかがと思う気持ちがどこかにあるのです。でも…


槙寿郎さんも、千寿郎君も夫婦になることを心から喜んでくれていると改めて感じ、この人と家族になりたいと、そう強く想いました。」


「名前…」


「だから、私、杏寿郎さんと夫婦になりたい。私を嫁にしてくれますか。」


名前は杏寿郎との目線を合わせ笑顔で素直な気持ちを伝えた。

その姿と言葉にたまらなく愛おしさを感じた杏寿郎は黙ったまま酒をお盆に置いてはすぐさま名前に優しく抱き寄せた。

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