希望の涙
 

ナツとハッピーが仕事に行ってからもう三日が経つ。

今回ナツ達が受けた仕事は本来なら一日で帰ってこれるものだった。暗くなったため、近くの宿で一泊、ということも考えられるがそれにしたって遅い。


「…やっぱりあたしも一緒に行けばよかったかなー」

テーブルの上に両腕を置き、頭を下げた状態でルーシィは隣を見る。隣には誰も座っていない。


「ナツの仕事にか?」

「うん。ちょうどあたしレビィちゃんと仕事行く約束してて……ナツから誘われたんだけど断っちゃったからさー」

「仕方ねぇじゃねぇか、仕事入ってたんだったなら」

ルーシィの正面にグレイ。その隣にエルザ、といった配置だ。ルーシィの隣が空いているのはそこがナツの定位置だからだ。

いつもうるさい桜色の髪がいないと妙に落ち着かない。


「…にしてもやはり遅いな。私達で迎えに行くか」

「ったく仕方ねーな。姫さんが悲しそうだから迎えに行ってやるか」


ちらりとグレイはルーシィを見る。"姫さん"はルーシィの事だと周りはすぐに分かったようだ。


「べっ、別に悲しんでなんかいないわよっ!」

「そうだな。悲しそうなルーシィは見たくないからな。行くか」

「ちょっとエルザ!?あたしの話聞いてた!?」


グレイとエルザはルーシィのツッコミを華麗にスルーしつつ、ナツとハッピーを迎えに行くための準備を始め、直ぐ様出発した。


マグノリアの街を出てから魔導四輪で進むこと3時間と少し。
ナツ達が受けた仕事は森に巣くう闇ギルド(といっても大規模な闇ギルドの傘下で5人ぐらいしかいない)討伐。その闇ギルドが巣くっていた森が遠目から見え始めた時だった。

魔導四輪を操っていたエルザが何かに気が付いた。


「!?あれは………ハッピー!?」

「えっ…!?ってちょっ、痛っ!!」


道に横たわっている青い塊を見たエルザがかけた急ブレーキでルーシィはその青い塊の前に投げ出された。

「痛たたたたた……っ!!ハッピー!!!」

「ん……ルーシィ…?ナツが…ナツを助けて」

「どういうこと、ハッピー!?」

「東の森の…奥に洞窟があるんだ…。そこにナツが…」


やっとの思いでそれだけ伝えるとハッピーは眠りについた。
よく見ると顔色が悪く、熱もある。相当無理をしていたらしい。


「急ぐぞルーシィ、グレイ!」


苦しそうに呻くハッピーの額にグレイのくれた氷を当てて、先程のハッピーの言葉を咀嚼する。どう考えてもナツが危険な状況にあるという事だけは予想がついた。不安に胸が潰されそうになったルーシィは手を心臓の前で強く握り前を向く。そこには――


「何これ……!?」

ルーシィ達が森に着いた時奥の方から煙が上がっているのが見えた。狼煙とは違う、明らかに森が燃えているのが分かる煙だった。

「ここから先は魔導四輪では進めないようだな」

「あぁ。…っておい、エルザ!顔色悪いぞ、大丈夫か!?」

「魔導四輪を飛ばしすぎたらしい。思った以上に魔力の消費が激しくてな…。お前たちと一緒に行っても足手まといになるだけだろう。私はここでハッピーと待っている。ナツを頼んだ」

ずっとエルザ1人でここまで魔導四輪を運転していたのだ。魔力はほとんど使いきってしまったのだろう。

「…分かった。オレとルーシィで行ってくる。ハッピーは頼んだぜ」

エルザとハッピーのことも勿論心配だったが、それ以上にナツのことが心配で、胸が苦しかった。

ハッピーの言っていた通り森の奥の洞窟に行くと、だんだん辺りが熱くなっているのに気が付いたと同時に、煙も濃くなっていて視界が悪くなっていく。


「ナツ…!」

漸く洞窟の前に着いたときルーシィの目には炎に包まれた桜色の髪の少年が写った。

「ナツ!」

「止まれルーシィ!」

ナツの下に駆け出そうとしたが、グレイが手首を掴んだため止まらざるをえなくなった。

「なんで止めるのよ!やっと見つけたのよ!?」

「落ち着け。今冷静さを欠いたらダメだ。取り敢えず落ち着いてあいつを見ろ」

真剣な目のグレイに逆らう訳にも行かず、一度深く深呼吸をする。一度落ち着いてからナツを見た。

「ナ、ツ……」

ルーシィの呼びかけにナツは答えなかった。目が虚ろになっていて苦しそうにしている。立っているのもやっとのくらいだ。

「ナツ、聞こえてるか!」

「ナツ!!」

グレイと交互に呼んでみるも、聞こえている様子は無い。


「不味いな…。取り敢えずあいつの周りの炎を消すぞ。アイスメイク…床(フロア)!!!」


グレイの造った氷の床はナツの周りだけみるみる消えていった。

「くそっ!あいつ今魔力が制御出来てねー状態だ。このままだとヤバいな」

「そんなっ!…アクエリアスは水が無いと呼べないし………こうなったら」


あたしが絶対にナツを助けるんだ。


ルーシィの中で決意にも似た気持ちがだんだんと強くなって、それは決意へと変わった。


「おい!ルーシィ、止まれ!今何の策も無しにナツに近づくのは無謀だ!!!」

「大丈夫。一か八かやらせて欲しいの。もしあたしがナツを止められなかったらその時はよろしくね」


なるべくいつも通り笑ってみせる。成功する確率は0じゃない、大丈夫、あたしなら出来る。自分を奮い立たせて震える足を前へ前へと進ませる。

グレイもルーシィの決意を察したのか、何も言わずにルーシィの周りから氷の範囲を広げて炎を消し始めた。


「…ナツ。聞こえる?聞こえてたら返事して」


ルーシィとナツとの距離は凡そ10メートル。返事を待つことなく一歩、また一歩と近づいていく。


今の距離凡そ5メートル。

「ナツ。あたしね、ナツに会って、妖精の尻尾に入って、皆とバカみたいに騒いだり、泣いたり、笑ったり出来て凄く嬉しいんだ。ナツありがとう。ナツに出会えて良かったよ」


4メートル、3メートル、2メートル……距離が近づくにつれて肌を刺すような痛みを感じる。グレイの氷も届かない炎の海に入っているようなものなのだ。当然と言ってしまえば当然だろう。


距離1メートル。


「ナツが好き。大好きよ!!」


今までずっと言えなかった気持ちが思わず零れて、一緒に涙も零れ落ちた。もうここまで来てしまえば何も怖くはない。
炎を身に纏っているナツに思い切り抱きついた。
零れ落ちた涙はナツへと落ちる。


身が焦げるような痛みを感じ、意識が薄れていく。それでもナツを離したくなくて強く抱き締めた。

もう意識が持たないと思ったルーシィの耳に聞き慣れた少し高めの少年の声が聞こえた。






「オレもルーシィが好きだ」









「ん……。あれ、ここは……?」


周りを見渡すと、どうやらここは妖精の尻尾の医務室のようであった。状況が把握出来ないまま腕や足に巻いてある包帯をみて今までの事を思い出した。

そうだ、ナツは、ナツは無事なのだろうか。


「…っ!な、ナツ!!」


叫んでみても返事は返ってこない。まさか、そんな、嫌な考えばかりが頭を過る。



「ルーシィ」


ガチャリという音と共にドアから入ってきた者に名を呼ばれる。間違いない、この声は――


「ナツ!!!」


紛れもなくナツそのものだった。ナツは怪我はしておらず、元気そうだった。その姿に何よりも安心し、胸を撫で下ろす。

「ルーシィ、火傷痛むか?ウェンディが治せるけど、跡が残るかもしれないって……」


ナツはみたことないくらいに申し訳なさそうな顔をしていて、少し気にしてはいたが、火傷のことなんてどうでもよくなった。


「良いわよ、別に。それより、あんたが無事で良かったわ」


その言葉を聞いて、ナツはルーシィ、ルーシィ、と何度も繰り返しながらルーシィを抱き締めた。強く、しかし優しく。

もう、しょうがないわね。なんて言いながら頭を撫でるルーシィも満更でもなかった。


「ルーシィ」

「なぁに?」

「オレ、ルーシィのことが好きだ」

「っ!」

「ルーシィは?」


ナツからの告白は素直に嬉しかった。けれど返事を求められるとは思ってもみなくて固まった。あの時は勢いに任せて告白してしまったが、ここで言うのはとてつもなく恥ずかしい。


「あ、あの時言ったわよ!?」

「オレあん時ほとんど意識無かったし、もっかい聞きたい」


「っ〜!!好きよ、ナツが好き!!!」


真剣な目のナツから逃げることなんて出来るわけがなかった。普段おちゃらけているのにこんなの反則だ。

「おう。オレもだ」


赤面した顔を前に向けるとナツからキスをされた。

これからは"大切な仲間"じゃなくて"恋人"って関係になるのかな、なんて思ったのは自分だけの秘密である。






――――――
長いことお待たせしてしまって本当にすみませんでした!!!(土下座)

きちんとリクエストに沿って書けているのか不安でしょうがないです…。
ルーシィがやけに男前だったり説明口調のとこが多かったりと色々細かいところをあげていったらきりがないですが、こんなのでよかったら是非貰ってやってください。

あとですね、これのおまけを書こうと思っているのですがおまけは今日中に終わらなそうでしたので、出来次第ここにおまけのページへのリンクを貼らせていただきます。

みるみる様のみお持ち帰り可能です。



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