掌から伝わる温度
 

冷たい牢の中で思い出すのは俺に光を見せてくれた人、エルザだった。


エルザは綺麗な緋色の髪の誰よりも仲間を大切にする、光の中の人。


だが俺は仲間を殺し、仲間を傷付け、闇に落ちた。


昔は一緒に奴隷として働かせられていたらしいが、何一つ思い出せない。


否、思い出したくないのかもしれない。


コツコツと冷たい床を歩く音が聞こえてきたが、これもきっと夢だ。



だって、エルザが目の前にいるのだから――


『何が夢だ。私はお前に会いに来たというのに』


つい先程まで考えていた人物の登場にジェラールは目を見開く。


面会は10分までだと言われ、エルザは分かったと短く答える。


『本当に夢じゃないのか…』


『夢じゃないとさっきも言っただろう』


ほら、と差し出された手におずおずと自分の手を重ねる。


エルザの顔を見れず、下を向いたままエルザに問う。

『何故来た…』


『来てはいけなかったか?』


『あぁ。あまり会いたくはなかった』


…違う。
本当はずっと会いたかった。
エルザに会いたくて仕方がなかった。


『…そうか。すまなかったな』


顔をあげるとエルザの悲しそうな顔が目に映る。

お願いだから、頼むからそんな悲しい顔をしないでくれ。


『……ジェラール、お前痩せたんじゃないか?』


暫しの沈黙の後、唐突にエルザがジェラールに問う。


『そうかもな。最近食欲が無くてな』


そういえば最近あまり食べてない。
どうしても食欲がわかないのだ。


『きちんと食べてくれ。でないと私の心配事がまた一つ増えるだろう?』


そう言ってエルザは寂しそうに笑った。
触れたら壊れてしまいそうだというのと同時に綺麗だと思った。


『エルザに心配はかけたくないからな。これからはちゃんと食べるよ』


『ああ、そうしてくれ。…どうやら10分経ったようだ。次に来る時にはもう少し元気な姿を見せてくれ』


『…ああ』


重ねたままだった手が離れていく。
手から伝わっていた温度が遠ざかっていく。



エルザは俺の方を見ないまま牢を出ていった。
肩が震えていたので分かったが、恐らく俺に涙を見せないためだろう。




罪を背負って生きる事が俺が受けるべき罰ならば、俺は自ら進んでその罰を受けよう。




ただ、もし神がいるならば、俺の為に涙を流してくれる人を愛す事を赦してほしい。



そうすれば俺は前を向いて生きていけるから――






――――――

遅くなったのにこんなんで申し訳ないです(>_<)


切ないを通り越して重くなってしまいましたorz


内藤杏樹様のみお持ち帰り可能です(^^)



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