理由なんてない。でも、
彼を見ると無性にイライラしてしまう自分がいた。
「げ。」
彼は廊下の前方から歩いてきたと思ったら私を視界に入れた瞬間そんな失礼極まりない声をあげた。
「ちょっと!私見てそういう声あげるのやめてくれない?」
「はぁ?別にお前に向けて言ったとは限んねーだろ自意識過剰!」
サラサラした赤い髪。小さい身長。
彼の名前は向日岳人という。
「自意識過剰!?思いっきり私見て言ってたくせに何言ってるの!?」
「うっせーよ!俺だって見たくて見たわけじゃねーし!」
こういうふうに私たちはいつも顔を合わせれば喧嘩ばかり。
なんでこんなしょうもないことをしてるのか自分でもわからないけど、勝手に口が動くのだ。
私だって喧嘩したいわけじゃないし、むしろ仲良くした………え?
私は今何を思った?
「クソクソ!ほんとお前ムカつく!」
「それはこっちの台詞!」
仲良くしたい……ってこんなムカつく奴と?
喧嘩したくない、ならわかるけど仲良くする必要はないはずだよね?
じゃあなんで私は今、
ぐるぐると考え続ける頭を無視して私の口は勝手に言い返している。
「この間だってノート破いといて逆ギレするし……」
「それは謝っただろ!?」
ああ、駄目だ。
この考えの先は駄目。
今この考えの先にたどり着いたら、これまでの私は全部ひっくり返ってしまう、そんな気がする。
「だいたいなんでそう向日は私につっかかってくるわけ!?」
「! そんなん…っ」
なんで仲良くしたいと一瞬でも思った?
なんで彼を見るとイライラした?
なんで?なんで?
わかったらいけないはずの答えが待つ質問を私の口は勝手に吐き出した。
「〜〜っあーもう!好きな奴はいじめたくなるって言うだろ!?ばか!!」
瞬間、私の頭は真っ白になる。
向日は顔を真っ赤にして走っていった。
「………ばかはどっちよ、ばか…」
ああもう、頬が熱い。
恋心、空中分解
(私が受け止める前に)
(その想いは弾けた)