「それでねっ、ブン太!」

「おう」

「七面鳥とローストビーフはさっき買って来たんだ!あと食べたいって言ってたからケンタッキーも用意したけど…なんか肉だけですでに超くどいよ?大丈夫?」

「オールオッケー。何があっても最後には俺が全部食ってやるから一切問題ねー」

「そっか。ならいいや!」


"クリスマスは私がブン太の好きなもの、ぜーんぶご馳走するからね!"

そう言って何日も前からこの日のために準備してくれてた、恋人のなまえ。
俺はがんばり屋で優しい、そんななまえのことが本当に大好きだった。

…だけど、彼女は。


「あとパスタはもうちょっとで茹で上がるから待っててね…あっ、グラタン焼き上がってたの忘れてた!オーブン入れっぱなし!!」

「おいおい…大丈夫か?なんか手伝うぜ、そっちのが効率いいだろぃ」

「い…いいのっ大丈夫!ブン太はくつろいでて!!」

「…お、おぉ…そっか」


料理はまったくの初心者。
なのに、「お願いだから最後まで1人で作らせて」って言ってどうしても聞かない。
そんな頑固な子だった。

そのせいでさっきから食材や電子機器と格闘する彼女を、こうしてキッチンの入口で見守ることしかできない俺。
何か失敗して声をかけるたびに「くつろいでて」って追い返される。

でも普段から天然でそそっかしい彼女を放置して、ゆっくりくつろげる訳なんかなくて。


「あぁーっやっぱり焦げてる!どうしよう…ごめんブン太!!」


…ほらまただ。
助けを求めようとはしないクセにいつの間にか本日4回目の、可愛くて情けない悲鳴が聞こえた。


「んな気にすんなってー…どれどれ」


軽くそう言いながらオーブンの中を覗くと、


「な…何だよ超美味そうじゃん!俺これ食うの楽しみだわ!」

「ほんと…?」

「……おう!!」


ごめん嘘。
…それは正直、グラタンのGの字すら迷子気味などこぞのダークマターだった。

これ焦げる以前の問題だろぃ…
一体何をどうしたらこうなったんだろう。

だけど言えねー絶対。
んなこと本人に。


「ま、まだパスタもピザも…デザートだって全然用意できてないのに、こんなとこで時間取ってらんない…」


なまえはぺたんと床に座り込んで、しょんぼり俯いた。
…その姿を見た俺は。


「……!!」


バカだな。
ついさっきまで思ってたことなんか、ほんの一瞬で吹っ飛んで。


「なまえ」

「…なに、ブンt……っん!」


無意識。
ホントにホントに無意識のうちに、彼女にキスをしていた。
しかもアレだ、長くてそのー比較的…エロいほう。


「……っ…?」


多分なまえは全然意味分かんなかったと思う。
私落ち込んでんのに何でこのタイミング?バカなのお前?って感じだったと思う。

けど我慢できなかったんだ。
なんかもう、マジで可愛いすぎて。


「…俺なんかのために、苦手な料理とか一生懸命挑戦してさ」


そのキスは相手がなまえなだけあっていつもどおり最高に気持ち良かったけど、一旦中断して喋る。
この内容が重要だからだ。


「…はぁ……ブン、太?」

「材料必死に買い回って前日にいっぱい練習したのに、それでも当日あっさり失敗とかしちゃって」

「……」

「まだ作らなきゃいけないもの残りまくってて、でも俺を喜ばせるためなんだから俺に手伝わせるわけにいかなくて…」

「ブン太…本当ごm」

「そーいうの」

「え」


言葉を遮り、彼女の両頬を手で覆う。


「…なまえのそーいうトコがいとしすぎてさ」


みるみる真っ赤になっていく大好きなその子に、思わず舌なめずり。


「俺もう、」

「きゃ……っ」


いつもそうやって、1番に俺のこと想っててくれる。
それだけで満腹。

それだけでもう、心もカラダも大満足なんだ。


ただ俺がそうしたかったから
(本能に身を任せ)
(したいときに、したいことをするまで)









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